タイの国鉄が日本の鉄道好きには胸熱な理由

鉄道ファンから唯一漏れる不満

 外国人鉄道ファンからはいろいろな意味で注目されるSRTだが、ひとつだけ難があると多くの鉄道ファンが口を揃える。というのは、SRTは鉄道管区内において一切の飲酒を禁じている。違反すると懲役6ヶ月以下か、1万バーツ(約31250円)以下の罰金、もしくはその両方が科せられる。ビールを飲みながら、タイの焼き鳥などをつまみに旅が楽しめないと鉄道ファンたちは残念がっているようだ。

チェンマイ駅に停車していた1993年日立製のHID型ディーゼル機関車

 なぜこの条例に不満の声が出るのか。それはこの法が施行された事情にある。2014年7月に南本線で13歳の少女が車内で強姦され、投げ捨てられて殺害されるという痛ましい事件があったからだ。犯人は酒に酔っていたとされ、それによりこの法ができた。こんな事情であれば多少納得はいくが、その犯人はなんと酒と覚醒剤で酔っ払ったSRTの職員だった。かねてからタイの列車には必ず鉄道警察官が同乗し、運行中は乗客の安全や車内の治安を守っている。それにも関わらず発生したのはあくまで身内の問題で、なんで乗客が損をしなければならないのかとファンたちは怒っているのだ。

今年の鉄道記念日にバンコク-アユタヤ間を走った日本の機関車。線路脇にはタイのカメラ小僧たちの姿が。日本では考えられない距離で撮影ができるのもSRTの魅力

 しかし、酒は飲めなくともタイの鉄道の魅力、ブルートレインに乗る楽しみについては変わりはない。チェンマイの夜行は夕方に始発駅を出て、翌日朝に到着する。移動費は高くても、ホテルで寝ることを考えれば案外損はない。実際、チェンマイ在住の日本人ビジネスマンはバンコクで会議がある際はブルートレインの個室で寝るまで仕事をし、広いベッドで快適に寝て、朝は駅からそのまま会議場に行くのだそうだ。発想を変えれば、時間の節約にもなるのがタイを走るブルートレインの正しい使い方でもあるようだ。 <取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NaturalNENEAM)>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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