英国のEU離脱。次に続く可能性がある国は?

「離脱候補国」に波及する英国の決断

 フランスはこれまでもEU懐疑派の多い国として知られて来た。その数は〈フランス人の61%を占める〉という。(参照:『El Confidencial』 )  フランスは歴史的にも常にヨーロッパの基軸として存在して来た。しかし、最近の同国の経済低迷とテロリストからの脅威があり、それらと移民受け入れを結びつけて考える人々がいて、これらの問題の発端がEU加盟にあるという結論に結びつけようとする傾向にある。それをルペン党首の国民戦線が上手く捉えて国民からの支持を集めているのだ。  オランダの自由党は英国の離脱派が勢いをつける以前からEUに懐疑的であった。ウィルダース党首はEU委員会がオランダの政治を左右していることに反対して、彼は常々〈「我々自身が我々の国、我々のお金、我々の国境そして移民への取り組みを担うべきだ。私が首相になれば、EUから離脱することについての国民投票を実施する。オランダ国民にその決定を任す」〉と発言しているように、今回の英国のEU離脱は彼にとって大きは弾みとなっている。しかも、彼が首相になる可能性も浮上している。(参照:『El Confidencial』)  次に、スウェーデンはスカンジナビアにおける英国という位置にある。即ち、EU加盟はしているが、ユーロ通貨は採用していないということだ。今回の英国のEU離脱はスウェーデンの今後の政治を大きく左右することになると思われる。EUの移民対策に従って移民を多く受け入れたが、それを快く思わない人々の支持を受けて極右派が力をつけて来ているのだ。  デンマークも、スウェーデンと同様に移民問題によって長年築き上げた社会保障システムが壊れる可能性が生まれている。さらに、デンマークは英国と政治的体質が似ており、これまでEU内における交渉で英国を頼りに共同歩調を良く取って来た国である。その英国がパートナーとしていなくなると強力な味方をなくしたことになる。  イタリアの北部同盟は今回の英国の離脱に強い感謝を表明している。これでイタリア国内で国民投票を実施出来る動機が出来たとしている。  ベルギーとポルトガルは共に英国と経済的に強い絆をもっている国である。特にポルトガルは地中海の国というよりも大西洋の国という意識が強く、フランスとスペインがポルトガル征服に動いた時には英国が常にポルトガルの味方になった。  一方、スペインにはジブラルタルという英国植民地が隣接している。観光と金融で栄えるジブラルタルの国民は9割がEU残留を望んだ。スペインはジブラルタルがEU加盟国の英国領ということからシェンゲン協定に基づいて人の移動の自由が保障されていた。しかし英国がEUから離脱すると、ジブラルタルもその特権を失うことになり、スペインはジブラルタルとの間に国境を設けることが可能となる。これも今後のスペイン、英国そしてジブラルタルの3者交渉が必要になってくる課題として浮上してくるはずだ。  以上の列挙した国々から窺えるように、英国はこれらの国々に強い影響力をもっているのである。それ故に、英国のEU離脱派がEUの解体を狙っているというのも空想話しではないのである。
次のページ
英国の離脱を惜しむメルケル
1
2
3
4
ハッシュタグ
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会