そこで疑問なのが、敵であるISにどうして捕虜を渡すのか、どうして彼らの真似をするのかという点だ。
ヌスラ戦線は現在、ISと深く対立し、戦闘で銃を向け合うライバルだ。シリア北部のアレッポに住むヌスラ戦線の戦闘員に聞いても、今回の安田さんの写真は「どう見てもヌスラ戦線らしくない」とのことだった。
「捕虜同士の交換、で安田さんを引き渡すことはあり得るのか」と聞くと、「少なくともISとはそんな取引はしない。これだけは確信がある」と断言した。
もちろん、地域や基地による違いはあるため、一概に「ヌスラ戦線はISと捕虜交換をしない」とは言い切れない。だが、残虐的なイメージを強めてきたISとは一線を隠してきたヌスラ戦線が、この場に及んで彼らの真似をするのは、非常に不可解である。
ヌスラはこれまで、外国人の人質を殺した過去がない。
一時期安田さんと同じ場所で拘束されていたスペイン人ジャーナリストも、5月初めにヌスラ戦線から解放されたばかりだ。ただ、最近は、地元シリア人でさえもヌスラ戦線に拘束され、人身売買される事例が発生しているとも地元シリア人や海外メディア関係者らから聞く。
ヌスラ戦線だから殺さない、とは言い切れない。組織としての統制がとれているわけではないからだ。現に私が取材したヌスラ戦線の戦士たちは誰も、「ヌスラ戦線が安田さんを拘束している」という事実を知らなかった。