そうした期待が農業や牧畜に携わる人たちの活気を誘って、それがピックアップ車の販売伸展に影響しているのだ。特に、畑作業に使えて、また一般乗用車にもなるというピックアップ車はアルゼンチンでは大変人気がある。そんな中で、今年3月の自動車販売台数でついにトヨアのピックアップ車ハイラックスがトップの座についたのだ。
もちろん、前述したようにハイラックスSRWは日本円で600万円近くする車だ。他社のピックアップ車も、それよりも幾分か安いが全体的にアルゼンチンの生活レベルからすると高い。さらに高いインフレの国である。
しかし、そんな中で、生活に密着するピックアップ車で、取り分け高価なハイラックスが販売台数でNo.1になった。これは、アルゼンチンの消費者がトヨタ車に寄せる非常に高い信頼性が影響している。また、トヨタは自社独自のファイナンスを消費者に提供しており、これまで高いインフレの中にあってそれもトヨタ車を購入させる促進要因になっているようだ。
このトヨタ独自のファイナンス「トヨタ・ファイナンシャル・サービス」のアルゼンチン版である「トヨタ・コンパニア・フィナンシエラ・デ・アルヘンティーナ」、取引規模はアルゼンチンに存在している金融会社トップ10の10位に位置している。トヨタ以外はスペインの大手銀行BBVAをトップに全て銀行など金融専門会社である。
トヨタはこの自社グループの金融会社と協力して、特にハイラックス、エティオス、カローラの3本柱を中心にして〈最長84か月払いのローンを最後まで一定額で提供〉している。特にアルゼンチンのようにインフレ上昇の激しい国では月額の支払いが最初から最後まで同額であるというのは非常にメリットがある。しかも、 〈購入したあと、別のモデルに切り換えたいという場合も、その差額を最初に支払ったあと、残金は当初契約したローンの額で支払いを続けることが出来る〉ようになっているのだ。
ちなみに、アルゼンチンに進出している自動車メーカーで独自に金融会社を用意しているのはトヨタだけである。
(参照「
iProfesional」)。
こうした背景もあり、アルゼンチンの自動車情報ブログ、『
Autoblog』が、記事の中で〈ハイララックスはもう国の風景の一部になっている〉と言及するまでになったのである。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。