狂犬病に食肉業者の脅威。改善途上にあるタイの野犬事情とNGOの奮闘

本拠がプーケットで、設立2年目にスマトラの津波で関係者たちも辛い体験をしている。(Photo by Soi Dog Foundation)

野犬保護を行うNGOの活躍

 タイの野良犬などに関係したNGO団体で最も有名なのが「Soi Dog」である。  ソイというのはタイ語で裏通りや小路のことで、野良犬をタイ風英語でソイ・ドッグと呼ぶ。この「Soi Dog」はタイ人ではなくGill Dalley氏ら3人の欧米人によって2003年に発足された団体で、彼らのミッションは食べられてしまう犬を救うことだけでなく、野良犬の予防接種や保護と里親を探すことも行っている。  本拠をタイ南部のリゾート地プーケットに置いており、シェルターは現在、プーケットとタイ東北地方のブリーラム県にある。バンコク事務所はクリニックを兼ねており、直接「Soi Dog」に通報があった野良犬を回収し、獣医が適切な処置を施して狂犬病を減らすことに尽力している。  シェルターには常時1300匹程度の野良犬が保護されており、常に里親を探している。ここから犬を引き取ったという日本人女性は、「野良犬は好きで野良犬になっているわけではありません。野良犬だから悪い犬だと決めつけないでください。野良犬はそれまでの生活環境からあまり吠えなくなっています。ですので飼い犬として来てもらう場合、無駄吠えがないのでとてもいい子ばかりなんですよ」と語る。

「Soi Dog」のバンコク事務所はクリニックになっており、医師常駐で治療やワクチン接種などを行っている

「Soi Dog」で引き取られた犬はワクチン接種はもちろん、あらゆる健康診断をクリアしている。欧米でも「Soi Dog」の名前は知られており、海外の里親希望者にも引き渡すことができる。犬の国外輸送は国際的にルールがあり、「Soi Dog」ではその輸送手続き対応も万全である。ホームページに里親を求めている犬の写真が掲載されているので、日本在住者で興味のある人にもぜひ連絡してほしいという。  タイは近年経済的に大きく発展した。人々の生活も豊かになり、ペットを飼う人も急増している。しかし、ペットを飼うことへの責任やモラルが欠如している人もタイではまだまだ多く、捨て犬などもあとを絶たない。そのため、「Soi Dog」を始めとしたNGO団体の活動は今後も長く続きそうである。 取材協力:「Soi Dog Foundation」 <取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NaturalNENEAM)>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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