保護された野犬にも、人間を敵対視している犬もいれば、フレンドリーで庭で放し飼いにできる犬もいる
観光大国タイにはいまだに狂犬病がある。
狂犬病は、日本では1957年(昭和32年)以降、動物にも人間にも発生がなく、あまり身近な病気ではなくなっている。しかし、世界保健機構(WHO)の推計では年間およそ5.5万人が狂犬病に感染して亡くなり、そのうち3万人以上がアジアでの死亡者だという。
タイでもよほど下手な行動を取らない限りは脅威になることはないが、郊外の路地の奥などでは特に夜になると犬が徒党を組んで人を襲うこともあるので、旅行や長期滞在で注意を怠ってはいけないことのひとつとなる。
日本の保健所に相当するバンコク都公共獣医局が公表しているバンコクを徘徊する野良犬の数はおよそ10万匹だ。毎年6000~8000匹が保護され、年平均で6000匹が獣医局の施設で飼われている。
同局に寄せられる野良犬に関する苦情は年間4500件におよび、最も多いものは狂犬病に感染している恐れのある犬の通報、2番目が凶暴で人を襲ってくる野良犬、3番目が吠えたりなどの騒音に関する苦情となっている。寄せられた情報を元に公共獣医局は野良犬の捕獲や状況の改善を実施する。
捕まえられた野良犬たちはまずタイの玄関口であるスワナプーム国際空港に近いバンコク都プラウェート区の施設に運び込まれる。収容されると獣医によってワクチンの接種や健康状態の確認が2週間に渡って行われ、問題がないと判断されるとタイ北部にあるウタイタニー県でバンコク都が設立した施設へと移送される。タイの収容施設に救いがあるのは、日本の保健所と違い殺処分がない点だ。敬虔な仏教徒が多いタイなので殺生はしないというスタンスだとされる。
そのため、収容した以上はその犬が生涯を終えるまで面倒を見ることになり、飼育費用は莫大になる。餌が500トン、ワクチンが3~4万針分、その他の医療費などがかかり、年間で2450万バーツ(約8160万円)もかかっていると公共獣医局は公表している。一般会社員が屋台で昼食を済ませる場合は1食200円程度という物価レベルから考えるとかなりの額になることがわかる。
そうした問題の解決法として、公共獣医局では、タイ人に限り「絶対に捨てない」ことを宣誓してもらった上で里子に出している。個体認識をするチップの埋め込みも一般化し始めており、宣誓を破り捨て犬にした場合には飼い主に罰則が科せられる。