昨年12月に着陸に成功したファルコン9は、格納庫で徹底した調査を受けた Photo by SpaceX
スペースXにとって次のステップは、回収したロケットを再使用することにある。そしてこのステップを乗り越えることは、ロケットを着陸させるよりもはるかに難しいだろう。
ロケットを回収できることと、回収したロケットを使い回すことで本当に安くなるかどうかは、実は別の問題である。たしかに、再使用すればロケットを新しく造る必要はない。しかし、再使用するためにかかる整備費が、ロケットを新しく製造するよりも、かえって高くなってしまう可能性がある。
ロケットは打ち上げからわずか3分ほどで高度100km、時速は7000kmに達し、その原動力となるロケットエンジンは高圧・高温状態で動いており、機体のあらゆる場所に大きな負担がかかる。かといって頑丈に造ると重くなってそもそもロケットが飛ばないため、できる限り軽く造らなくてはならない。軽いということは、機体の構造に強度的な余裕があまりないということでもある。そのような乗り物を再使用するというのは極めて難しい。
さらに、一度飛んだことで壊れかけている機体を打ち上げて失敗しては元も子もないので、どの程度の再使用なら安全で、どの程度なら壊れるのかという、分水嶺を見極めるための技術も必要になる。
ただ、同社は昨年12月に着陸に成功した機体を徹底的に調査・分析しており、さらにエンジンの燃焼試験など、ロケットの限界を知るための試験も繰り返し行なっていることがわかっている。だが、これまで再使用計画の見直しなどは発表しておらず、「ロケットの価格を従来の10分の1から100分の1にしたい」という姿勢を崩していない。
今回の打ち上げ後に行われた記者会見でも、再使用可能な回数について問われた際、マスク氏は「10回から20回は耐えられるだろう。また、小さな改修を行えば、100回程度にまで耐えられるだろう」と答えている。
マスク氏はまた、この会見の中で、ロケットを実際に再使用する目処についても語った。昨年12月に着陸した機体は各種試験のため使われており、再使用されないことが明らかにされている。しかし、今回船に降りた機体については「地上で試験を行った後、今年の夏ごろ、早ければ5月か6月にも、再び打ち上げに使うことを考えている」と述べている。
再使用で、本当にロケットは安くできるのか。それは実際に再利用による打ち上げが始まらないとわからないだろう。物事がマスク氏の発言どおりに順調に進めば、今年中にもその答えが出ることになる。
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。
Webサイト:
http://kosmograd.info/about/
【参考】
・
CRS-8 DRAGON MISSION | SpaceX
・
CRS-8 Dragon Resupply Mission(※pdf注意)
・
The why and how of landing rockets | SpaceX
・
Background on Tonight’s Launch | SpaceX
・
SpaceX return Dragon to space as Falcon 9 nails ASDS landing | NASASpaceFlight.com