昨年12月に着陸に成功したファルコン9 Photo by SpaceX
スペースXはまず、簡単な実験機をいくつか造り、飛行実験を繰り返した。この実験機は高度数百mから数千mまでしか飛行できないが、ロケットの着陸に必要な、誘導や制御の技術を習得した。
次に同社は、実際に人工衛星を打ち上げるロケットを使った飛行試験に入った。まずは海上のある狙った海域にロケットを着水させる試験から始まり、続いて広い甲板をもつ船を用意し、その上に降ろす試験に移った。同時に、ロケットを打ち上げる発射台の近くに着陸場を整備し、そこへも着陸できるようにした。
船での回収は昨年1月と4月、6月、そして今年1月と2月にも試みられたが、甲板に激突、あるいは着地後に転倒するなどして、完全な成功には至っていなかった。その一方で、昨年12月21日には陸の着陸場への着陸に初挑戦して成功を収めた。ロケットがエンジンを噴射しながら、するりと舞い降りる様は大きな注目を集めた。
そして今回、満を持してついに船への着地にも成功し、これで陸と海の両方で、ロケットを回収できる見込みが立ったことになる。
昨年1月の試験の様子。ロケットは甲板に激突した。今回の成功までにはこうした失敗を何度も繰り返し、そのたび改良が重ねられた Photo by SpaceX
ところで、なぜ陸と海の両方で回収する必要があるのだろうか。これには、陸に着陸できない場合でも、船に着地できるようにすることで、回収の頻度を上げるという狙いがある。
ロケットはまっすぐ宇宙に向かって飛んで行くというイメージがあるが、実は打ち上げ後に徐々に機体を横に倒し、地球の丸みに沿って、水平方向への速度を稼ぐように飛んでいく。つまりある程度飛行すると、それだけ発射台からの距離も離れることになる。ファルコン9の場合、その距離はおおよそ200kmにもなる。
陸に着陸する場合、ロケットはUターンし、今まで飛んできたその200kmの距離を引き返さなくてはならない。そのためエンジンを動かすための推進剤(燃料と酸化剤)を追加で積む必要がある。ロケットにとって打ち上げる衛星が軽ければ、その余裕を十分もたせることができるが、重い衛星を打ち上げる場合には余裕が少ない場合もある。
ファルコン9が船に降りる際の飛行経路を描いた図 Photo by SpaceX
そこで、ロケットが飛ぶコースの真下の海に船を用意し、その上に降りるようにすれば、わざわざ引き返す必要がなくなり、余裕が少ないでも回収できるようになる。
ただ、陸に戻す場合でも海に降ろす場合でも、それぞれ一長一短がある。たとえば陸に着陸する場合、前述のように戻るために多くのエネルギーが必要だが、着陸後の回収や、整備、再打ち上げといった作業は簡単になる。一方、船に降ろす場合には、必要な推進剤は少なくて済むものの、難易度は高く、またロケットが載った船を港まで戻したり、ロケットを釣り上げて陸に揚げたりと、作業に手間がかかる。
したがってどちらが良い、というわけではなく、スペースXは単純に「ロケットの性能に余裕がある場合は陸に降ろす」、「余裕がない場合は船に降ろす」という使い分けをし、とにかくロケットを回収できる頻度を上げることを目的としている。