ホテル経営の本質をつく、「山の上ホテル」の創業理念とは?

「池波正太郎が通帳を預けるほど愛した」料理

 吉田がホテルを経営する上で、もう一つこだわったのが食事でした。山の上ホテルといえば、池波正太郎と「てんぷら近藤」の近藤文夫氏のエピソードは有名ですが、そもそも客室35部屋(別館があった時でも74部屋)に対して、和洋中に鉄板焼き、バー、カフェと7軒もの料理店が用意されている時点でその力の入れようが伺えます。  また、単純にその数自体もすごいですが、それら全てがホテルの直営店だというところも、特筆するべきことだと思います。経営効率を考えれば、数を絞って有名店に貸し出した方が良さそうなものですが、そういった方法をとらずに、創業以来のコンセプトを守り続けて、山の上ホテルといえば料理、という高い評判を築いています。年間の結婚式が300組に及ぶというのも、料理に対する高い評価を感じさせます。  吉田の口癖は「他ではやれないことをやれ」。嫌いだったものは「マニュアル」「インスタント」「省力化」だったそうですが、このレストランへのこだわりにもそれらをはっきり見ることができ、池波正太郎が宿泊だけでなく、食事でも頻繁に利用するので、わざわざ預金通帳を作ってフロントに預けた、という逸話も納得がいくところです。 第3期決算公告:2月26日官報73頁より 売上高(マイナビ2016より):5億1000万円 当期純利益:2007万円 利益剰余金:2052万円

近年は不祥事が続くも、今後に来るのはピンチかチャンスか

 さて、このように他にはないユニークなサービスと料理、歴史を積み上げてきた山の上ホテルですが、近年では残念な不祥事も目に付きます。一方で、ホテル業界は、バブル崩壊後に星野リゾートのような新しいホテル経営が模索されたり、インバウンド需要の高まりと問題が発生したり、と新たな局面を迎えています。それらに対して、山の上ホテルは何かを変えるのか、変えないのか、そしてそれはどう利用客や時代に評価されるのか、今後が気になるところです。 決算数字の留意事項 基本的に、当期純利益はその期の最終的な損益を、利益剰余金はその期までの累積黒字額or赤字額を示しています。ただし、当期純利益だけでは広告や設備等への投資状況や突発的な損益発生等の個別状況までは把握できないことがあります。また、利益剰余金に関しても、資本金に組み入れることも可能なので、それが少ないorマイナス=良くない状況、とはならないケースもありますので、企業の経営状況の判断基準の一つとしてご利用下さい。 【平野健児(ひらのけんじ)】 1980年京都生まれ、神戸大学文学部日本史科卒。新卒でWeb広告営業を経験後、Webを中心とした新規事業の立ち上げ請負業務で独立。WebサイトM&Aの『SiteStock』や無料家計簿アプリ『ReceReco』他、多数の新規事業の立ち上げ、運営に携わる。現在は株式会社Plainworksを創業、全国の企業情報(全上場企業3600社、非上場企業25000社以上の業績情報含む)を無料&会員登録不要で提供する、ビジネスマンや就活生向けのカジュアルな企業情報ダッシュボードアプリ『NOKIZAL(ノキザル)』を立ち上げ、運営中。
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