まるで日本会議の改憲決起集会だった今年の「建国記念日中央奉祝大会」――シリーズ【草の根保守の蠢動 番外編第7回】

壇上にあった「あの男」の姿

 今年は、壇上に椛島有三の姿があった。このイベントは例年、日本会議・日本青年協議会の主導で行われている。会場が明治神宮にあるからとて、このイベントを神社本庁主導であると考えてはいけない。そもそも神社本庁は職員数が少ない。こうした大規模イベントを行う体力がないのだ。先述した物販コーナーで売られていたものも、すべて、日本会議の本ばかりだし、司会の中山直也も日本青年協議会の人物。あらゆる面で、日本会議・日本青年協議会がこの式典を支えている。とはいえ、これまで椛島有三本人が壇上に上がったことはなかったように記憶する。  例年であれば、壇上に上がる日本会議の関係者は、三好達(元最高裁判所長官)や小田村四郎(元拓殖大学総長)など、彼らが担ぐ、「神輿」のような人たちばかりだった。  しかし、今年は、椛島有三がいる。これまで運動の事務処理面を支え続け、表に立つことを控えていた椛島有三が壇上に座っている。  聞くところによると、日本会議が「美しい日本の憲法をつくる国民の会」を通して集めている「改憲署名集め」はあまりはかどっていないという。昨年10月には関連団体に檄文が飛ばされ、より一層の署名集めの指示が出た。今年の正月、各地の神社で改憲署名のブースが目撃されたのは、その影響だ。  事実、去る11月に行われた「美しい日本の憲法を作る国民の会」の総会で発表された署名獲得数は、400万筆強でしかなかった。彼らがこれまで行ってきた「国民運動」の署名獲得数としては異例の低調さだ。中間発表の時点で、半数を超えていないことなど、彼らの過去の実績と比べれば、極めて珍しいパターンだ  だからこそ、彼らは、今、焦っているのだろう。  彼らの悲願である「憲法改正」に向けた千載一遇のチャンスであるはずの参院選を前にして、署名集めは遅々として進まない。なんとか事態を打開するため、大阪維新の議員たちをも使って署名集めをさせたり、神社で署名を集めたりと、性急な運動を展開させている。椛島有三は、その陣頭指揮に今一度立とうとしているのだろう。  彼らのこの「焦り」は、参院選に向けて、ますます加速していくだろう。なりふり構わず改憲の道につき進む日本会議の動向に、今後ますます、注視していく必要がありそうだ。  最後に、同大会で行われた日本会議名誉会長であり、元最高裁判所所長である三好達による「天皇陛下万歳」を皆さんにお聞かせして本稿を終えようと思う。 ※ 「紀元節復活運動」(66年に終結)と「元号法制化運動」(79年に終結)の2つは、戦後の「草の根保守運動」の嚆矢とも言える。しかし、この2つの運動の間に10年強の歳月が流れていることにご注意願いたい。この10年間で「草の根保守」の様相は大幅に変わった。この「戦後保守の様変わり」を解説することが本連載の大きな目的の一つでもある。しかし、この稿の主題に合致しないため今は省く。「建国記念日復活運動」については、『国民の天皇 戦後日本の民主主義と天皇制』(ケネス・ルオフ 2003年 共同通信社)を参照願いたい。 <取材・文・撮影/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)>
すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(sugano.shop)も注目されている
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