東大卒がノーベル賞で苦戦する理由その3「東大は官僚養成校だからノーベル賞が少ない」は正しいか?――江藤貴紀「ニュースな事情」

江藤貴紀

photo by MIKI Yoshihito on flickr (CC BY 2.0)

 前々回前回ともに「東大卒はなぜノーベル賞で苦戦するか」について考察をしてみた。

 敢えて細かい点を取り上げて指摘したので、予想通りさまざまなご批判の声も頂き、ありがたく拝聴した。しかし、いくつかの批判の内、それはちょっと違うのではないかというものもあった。今回はそれらの説について検討してみようと思う。

東大は官僚養成校だからノーベル賞が少ないという批判は正しいか?

 一つ目は「東大は官僚養成校だから」というレッテル張りの指摘だ。はて、ここでは差しあたり文系と理系を分けて考察してみよう。まず文系ならば確かに、官僚第一志望の人間も相当数に存在する。だが、筆者の見聞からも、また客観的に得られる日本の官僚機構の人事キャリアの情報からしても、理系入学者で官僚志望はまれであると考えられる。

 というのも、官僚で出世するのは文系枠で、理系枠は冷遇といってもいい状況なのだ。

 実は高級官僚(従来、国家1種や国家公務員上級職と呼ばれていた。現在の名称は「国家公務員総合職」)といっても「事務官」と「技官」という2つの枠があり、このうち「事務官」の枠で入らないと、官僚のトップである事務次官へは基本的になれない。

 ウィキペディアの項目、「事務次官」から引用すると「各府省においては事務官優位の人事慣行のもと、事務官の就任するポストと技官の就任するポストは明確に区別されており、技官が事務次官に到達する例は少ない。しかし、建設省・科学技術庁系統の官庁(国土交通省、文部科学省)では、技官が事務次官を務めることがある」という。

 このうち国土交通省については、かつて統合される前の建設省だった時代に、「技官の王国」と称されたことがある。しかしそう呼ばれたという事実こそが、中央省庁のキャリアでは技官は本流ではなく文系採用の事務官であることを物語っている)。

 従って、官僚志望者にとって東大の理系はそもそも魅力的な枠ではないのではなかろうか。というのも、それまで法学部、経済学部などの同級生だった人間と同じ職場に入るのに、出世については同級生よりも負けるのがほぼ見えているというのはふつうに考えて本意ではないであろう。

 それゆえ、平成25年の人事院作成資料 によれば、事務次官になる以前の「採用」の段階ですら、法律職と経済職の合計よりも、全ての専門を合わせた技官職の人数は少ないのである。

 もちろん、東大の理系学部を出て高級官僚になる場合もある。ただ、筆者の知る限りでは、あえて技官ではなく(公務員試験予備校その他で勉強して)、法律職や経済職の文系事務官として入る場合が相当に多いように思う。また東京大学の理系学部卒が技官になる場合は、「安定しているから」であるとか、「大学院まで進んだが、研究職のポストが得られそうにないので入る」といった消極的な理由が、知る限りは多数である。

東大入試は暗記で、研究者に必要な能力とは違うというのは正しいか?

 筆者は東大の入試の解答用紙が特殊であり、東大向けの入試テクニックに特化した学生が集まりやすい点や、入学後の過酷な試験がノーベル賞受賞者の少なさの遠因なのではないかと指摘したが、同じような「東大入試」批判でも、この批判に関しては、ある程度ただしくてある程度まちがっていると思う。

 基本的に、記憶力が良いこと自体は研究を含めて何をやるのにもプラスのはずである。

 確かに、前々回の記事では東京大学の入学試験が普通の勉強ではなくヘンなテストに対する「慣れ」の側面が大きい勝負になっていると書いたが、それでも一定程度の知識量がないと、さすがに入学できない。従って基本的に記憶力のいい人間が東京大学へ集まってくるのは間違いない。

 ただ、同じ学校に記憶力の良い人間ばかりを集合させると、ネガティブな副作用が生じる余地があるのではないだろうかとは思っている。

 つまり、東大はカリキュラム上、学部生同士で、学内の成績を競い合う構造になっている。すると、記憶力の良い人間同士がテスト対策に時間を投下した「消耗戦」を前述のように繰り広げなくてはならない。これがどこかでもしも度を過ぎれば、研究にとってマイナスと考えられる。逆にもしも東大ではなくて、他の大学に進学していた場合ならば、むしろその学生は記憶力の良さをメリットとして享受して、自由な研究に当てる余地が出てきそうだが、東京大学に進むとそれが困難になるのではないだろうか。

<取材・文/江藤貴紀(エコーニュースR) photo by MIKI Yoshihito on flickr (CC BY 2.0) >

【江藤貴紀】
情報公開制度を用いたコンサルティング会社「アメリカン・インフォメーション・コンサルティング・ジャパン」代表。東京大学法学部および東大法科大学院卒業後、「100年後に残す価値のある情報の記録と発信源」を掲げてニュースサイト「エコーニュース」を立ち上げる。

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