東大卒がノーベル賞で苦戦する理由その2 入学してからも試験地獄 ――江藤貴紀「ニュースな事情」

photo by Gussisaurio((CC BY-SA 3.0)

 前回は、「東大卒はなぜノーベル賞で苦戦するか」について、入学選抜試験の解答用紙から、一部の受験生が(頭の良さや発想力などと無関係に)入学しやすい形式になっているからだけではないかという考察をした。

 もちろん、あの考察は私が思いついた考察のひとつに過ぎないので、賛同・批判にかぎらずさまざまな反響を頂戴したのは筆者としては嬉しい限り。

 SNS等でも、いろいろなコメントが出てきたが、そのうち「的を射ている」と思えるものと、そうでないものがみられた。

 このうち、私が「的を射ている」と思ったのは、「入学後に進振りという、成績別で専攻の決まる仕組みがあるので、2年生の途中までは良い点を取るのに追われて研究をしづらい環境だ」という趣旨の指摘だ。今回は懲りずにこの観点から東京大学を分析したい。

秀才揃いの優遇された条件をハンデに変えてしまう「試験地獄」とは?

 先述したように、ネット上で前回の記事に関する反応の中で、筆者も確かに首肯した仮説は「入学者の属性を考慮した場合のカリキュラム編成に問題がある」というものだ。

 東大理系の内部で何を専攻するかの希望は、理3(から医学部枠)を除けば、1,2年の間の成績で決まる。この制度はかつてから微妙に変化があるものの、現在も続いている。

 検索してみたが、残念ながら東京大学はウェブ上では、外部者向けにはそれほど分かりやすい資料を公表していない。そのため、大手予備校河合塾のHPにある説明を、次善の策として参考にしよう。

 それによれば、「進振り」という点数順に志望の専攻学科へ進めるという制度が東京大学にはあって、理科1類、理科2類という理系のメイン層(平成27年の定員で1640人)は、この進振りを通ることになる。また、一部は希望の専攻に進めないことを理由としてあえて1、2年で自主留年を行って学内での点数を上げてから翌年また進振りを受ける。

 成績評価の方法としては、一部科目でレポートもあるが、テスト科目も非常に多い。そして理系の必修科目はもともと理系の点数の高い人間同士で受けるので、東大理系合格者でも入ってみれば「東大理系の中では、理系のテストが苦手な方」という人間が当然に50%は出てくる。

 加えて、評価は厳しく、優(80点以上)はどの科目も3割を上限とすることが、1,2年の進振りに利用される科目では申し入れとされていて、実際とても厳密に運用されている。

 つまり、東大内部でのテスト点数勝負になるので、入学後も今度は東大生同士でテストバトル(レポートも一部はあるが)をしばらくするハメになって、非常に大変である。さらに、全員が必修の第二外国語や英語でも、かなり厳しく採点されるので、「東京大学入学者同士の競争で負けない様に」手を抜かずに勉強、それも試験勉強をやる必要があるということである。

 中には理系の花形学科、たとえば理学部物理学科に進むために、優秀な東大の大学院生などから、東大内部で習う数学や物理の家庭教師を頼むという例もある。このような過酷な状況下では試験に対する能力は抜群に向上するかもしれないが、自由な発想は生まれづらい……といえるかもしれない。

学内でも「進振り」と情報戦の必要性が説かれる風土

 実際、東京大学には「時代錯誤社」というミニコミサークルがかつてからあるが、すくなくとも十数年以上前から「どの教員の選択科目試験が取りやすいか、面白いかなど」という「逆評定」という特集をいまに続くまで出している(価格は300円で、筆者の記憶する限り過去と変わらない)。

 そして「進振り」も定番の話題としてそのミニコミ誌であつかっており、たとえば2015年5月の同サークルの特集号の紹介として「 今年度もやってまいりました。東京大学の名物イベント「進学振分け」。数多くの東大生が涙を流してきたこのイベント、勝ち抜くためにはやはり情報が必要となります。自分が本当に行きたい学部・学科を見つけ、そこに進学しましょう! 進学したところで勉強から逃れられないのが東大生ですが。」と、進学振り分けのために情報収集までする必要性が説かれている(太字部、筆者)。

このサークルの出版物はいわゆる「ネタ系」で、ウェブサイトで言うならばノリは大手ジョークサイトの「虚構新聞」に近いものの、理科系でも一定単位数の、自由選択科目における成績が進学振り分けに影響することからすると、教員ごとのクセ(頑張れば100点を付けてくれることがある、とか、精々85点までしかくれないようだ、など)を掴んで学内テストの点数を最大化する努力が真面目に東京大学・理系学生らの進路を左右してしまうのである。そして、この勝ち負けが進路を左右する風土は新しいものを発見するというノーベル賞の対象業績とは、まったく無縁なことは言うまでもない。

 次回は、頂いた批判の中で「ちょっと違うんじゃないか」というものに筆者なりの反論をしてみようと思う。

追記)前回記事のノーベル賞受賞者数の数で京大・東大・名古屋大を全て3人とくくったが、「3人」はノーベル物理学賞の人数で「自然科学系」の人数は京都大学6人、東京大学4人、名古屋大学3人である。不適切な記載をお詫びする。

<取材・文/江藤貴紀(エコーニュースR) photo by Gussisaurio from Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)>

【江藤貴紀】
情報公開制度を用いたコンサルティング会社「アメリカン・インフォメーション・コンサルティング・ジャパン」代表。東京大学法学部および東大法科大学院卒業後、「100年後に残す価値のある情報の記録と発信源」を掲げてニュースサイト「エコーニュース」を立ち上げる。


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