AIIB参加を決めたカナダと親中度を増す南米。この意味するもの
2015.05.29
中国のラテンアメリカにおける影響力が日に日に増大している。
中国の李克強首相が5月18日から26日までブラジル、コロンビア、ペルー、チリを歴訪した。その中南米訪問は中国の米大陸攻略の本気度をまざまざと見せつけられるものだったのだ。
そして、中国首相の最後の訪問先となったチリだ。
チリはラテンアメリカの中で中国と自由貿易連携協定を南米諸国でどこよりも早く2006年に結んだ国である。その関係は、すでに蜜月のものといっても過言ではなく、スペイン紙『エル・エコノミスタ』によれば、<当時10億ドル(1,230億円)の取引であったのが、現在は190億ドル(2兆3,370億円)まで増加している>という。
実際、チリは商いに抜け目のない国である。
なにしろ、チリは、環太平洋経済連携協定(TPP)も設立当初からメンバーとなっているのだが、このTPPに対抗して、中国が提唱したアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の推進国でもある。さらに、メキシコ、コロンビア、ペルー及びチリによって構成された、加盟国間の経済的統合を目指す組織である太平洋同盟(Alianza del Pacifico)のメンバー国でもあるし、メルコスール(Mercosur。アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの4か国の合意で締結された南米版EUのような自由貿易市場)とも連携することを提唱している国なのだ。
そんなチリが、今回の李克強首相の訪問で、<220億人民元(4,393億円)のチリ中央銀行と中国人民銀行との間のスワップ取引の合意署名をバチェレ大統領と李克強首相との間で交した。>上に、<人民元域内証券投資(RQFII)についても、チリ企業の人民元での投資枠を500億人民元(9,985億円)まで容認することが両者で確認された。また今年は北京と上海で「チリの日」と打つて、同国商品を販売するキャンペーンを実施することも決っている>という(『エル・エコノミスタ紙』)。
そこで振り返りたいのが、以前ハーバー・ビジネス・オンラインでも触れたこの記事(https://hbol.jp/35711)である。この記事で、筆者は安倍首相が昨年7月から8月初めにかけてメキシコ・チリ・コロンビアを訪問したと書いた。
今回の李克強首相の4か国訪問を報じるスペイン語系メディアの記事を見ると、この時に安倍首相が提示した、日本からの支援金の規模の違いを感じずにはいられないのだ。
10年以上も前からラテンアメリカに積極的に投資をし、主要各国の首長と頻繁に会談をもって来た中国。
一方の日本は、コロンビアに日本の首相が訪問するのは昨年の安倍首相来訪が初めてだったということも含め、長年ラテンアメリカとの関係強化を怠って来たと言える。
両国のラテンアメリカに対するアプローチの差は、今後いかなる影響を与えることになるのか?
また、先日報じたカナダのAIIB参加と併せて考えると、カナダと南米での存在感を増す中国の動きに、対米戦略の「本気度」を感じずにはいられないのだ。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
商売上手のチリとはスワップ取引の合意
南米外交において日本は完全に中国の後塵を拝している
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