JR東日本 上野東京ライン開業。課題は輸送障害への対応力
3月14日に行われたJR各社のダイヤ改正。その中でも、大きな目玉となっているものが北陸新幹線の開業と上野東京ラインの開業である。特に、上野東京ラインは今まで山手線東側で旅客流動のボトルネックとなっていた上野~東京間を東海道線・常磐線・高崎線・宇都宮線が直通することになり、東京の人の流れに大きな変化をもたらしそうだ。
※上野東京ライン開通によるメリットについては(https://hbol.jp/28575)を参照
上野東京ライン開通で多くのメリットがありそうだが、メリットだけではないのもまた事実。
常磐線を利用して通勤しているという会社員の山本貞和さん(仮名)は、「人身事故などの影響が気になる」と話す。
「今までは常磐線内で事故が起きない限りは大きな影響はなかった。でも、これからは東海道線や湘南新宿ラインでの事故も影響するってことでしょう……。会社は秋葉原にあるので上野東京ラインのメリットは僕にはない。上野から座れなくなる上に、今まで以上に人身事故の影響を受けることになるのはあまりありがたくないですね」
実際、人身事故などの輸送障害が発生した場合、直通運転区間が長ければ長いほど影響は大きくなる。鉄道ダイヤに詳しい専門家は言う。
「常磐線に関してはダイヤ改正後も大半が上野発着で、乗り入れも品川までなので影響はそれほどないかもしれません。ですが、今までも栃木県内の人身事故で東海道線のダイヤが乱れるようなことはよくありました。それが上野東京ラインの開業によってさらに広範囲に影響することは間違いないでしょう」
輸送障害が発生すると、JRに限らず鉄道事業者は影響を最小限に食い止めるため、直通運転の中止や途中駅での折り返し運転などを行うことが多い。上野東京ラインでも、同様の対応を取ることはできないのだろうか。
「もちろん、東京駅や上野駅はこれまで終着駅だったわけですから、直通運転を中止することはあるでしょう。品川駅も改良工事によって折り返し運転がしやすくなっている。ただ、いくら物理的に折り返し運転ができるとは言っても、運転系統が完全に一体化されるとなかなか難しいというのが実情です。そのため、東海道線・高崎線・宇都宮線・常磐線内での輸送障害の影響が広範囲に及ぶことは避けられない」
例えば、中央・総武線各駅停車と地下鉄東西線は相互直通運転を行っているが、中央線内で輸送障害が発生すると相互直通運転を取りやめて、東西線内への影響が出ないように対応している。しかし、これは運転系統があくまでも異なるため、こうした対応が可能になっているのだ。一方で、上野東京ラインや湘南新宿ラインは、事実上一本の鉄道路線として一体となった運行となるため、車両の運用などを考えても直通運転の中止まで踏み込む対応は難しいということだ。
「JR東日本の関係者に聞くと、『最善の努力をして影響を最小限にする』と言いますが、実際に輸送障害への対応はケースバイケース。現時点ではこの程度しか言えないと思います。もちろん、過去に比べれば緊急時の対応力は格段に向上しており、影響があまり出ない可能性もある。一方で、直通運転していない山手線や京浜東北線、埼京線などにも波及してとんでもない時代になる可能性もゼロではありません」
相互直通運転を行う区間が増えて、利便性は間違いなくアップする。しかし、同時に広がりすぎた路線網の中で、いかに輸送障害に対応するのかも求められるのだ。
そしてそれは、JRの今も抱えるある「課題」に関わってくる。
※「災害時の運転再開対応も懸念材料」に続く https://hbol.jp/28577
<取材・文・撮影/境正雄(鉄道ジャーナリスト)>
遠方の事故の影響が広範囲に拡大
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