「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

縮小続く西武百貨店、「小さなデパ地下」で起死回生めざす

 近年、大きく店舗を減らしていた「そごう・西武」(東京都千代田区)も、コロナ禍のなか久々に小型店の出店を決めた。  しかもその場所は、かつて同社が店舗を構えていたセブンアイ系のショッピングセンター「グランツリー武蔵小杉」(川崎市中原区)だ。
閉店が目立つそごう・西武

近年は閉店が目立つそごう・西武。今年に入って以降も「そごう川口店」(埼玉県川口市)を閉店させたほか、「秋田西武」と「福井西武」を減床している。

 4月28日に4年ぶりに再出店した「西武武蔵小杉ショップ」の特徴は、百貨店ならではの「小さなデパ地下」ともいうべきグルメ中心の品揃えとしたこと。  再出店といえども、2014年から2017年までグランツリーの準核店舗として営業していた旧店「西武・そごう武蔵小杉」は婦人服・紳士服・服飾雑貨などを中心に販売していたため、その内容は大きく異なるものとなった。
グランツリー武蔵小杉

西武百貨店が再出店するグランツリー武蔵小杉(川崎市中原区)。近隣にはタワーマンションが立ち並ぶ。

 コロナ禍のなか百貨店アパレルは苦境に陥っており、大型店でもテナント撤退が相次いでいる一方、デパ地下(食品部門)は比較的好調を維持している。  武蔵小杉周辺は多数のタワーマンションが立地しており日本有数の人口密集地であるものの、近隣には百貨店が出店していなかった。新たに出店する西武ショップは旧店より狭い売場面積となるものの、デパ地下グルメに特化した業態とすることで、都心の百貨店に足が向きづらくなくなった武蔵小杉周辺の郊外住民の需要を取り込みたい考えだ。  そごう・西武は武蔵小杉以外の中・小規模店舗についても、2017年までに殆どを閉店させている。しかし、それら閉店した店舗は多くがアパレルや服飾雑貨、ギフト中心であり、今回の小型店とは業態が異なる店が多かった。  セゾングループ解体から約20年間に亘って縮小が続く西武百貨店。コロナ禍のなか生まれることとなった新業態――「小さなデパ地下」は、同社が再び成長に転じる救世主となるのであろうか。
グランツリー武蔵小杉に再出店する西武百貨店(イメージ)

グランツリー武蔵小杉に再出店する西武百貨店(イメージ)。アパレル中心の旧店とは異なり「デパ地下グルメ」を売りにする。縮小が続く西武百貨店だが「ミニデパ地下」は反転攻勢の切り札となるだろうか。

 コロナ禍のなか、次々と新事業に乗り出した大手百貨店各社。  21世紀に入って以降、百貨店業界は長きに亘って「古い体質のまま」「顧客は高齢者と外国人ばかり」といわれ続け、「そごう・西武」のように店舗網を半分以下まで縮小するに至った企業も少なくなかった。  コロナ禍によって変化を余儀なくされた百貨店業界は、時代にあわせた構造改革を行うことで「進化」を遂げ、そして新たな顧客の取り込みにも成功することができるのか――感染拡大が長引くなか、各社の更なる「新たな一手」にも注目が集まる。 <取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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