12歳の少女に2458人の男が群がる映画『SNS-少女たちの10日間-』。突きつけられるおぞましい現実

©2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

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 4月23日より、チェコ映画『SNS-少女たちの10日間-』が公開されている。  本作は「幼い顔立ちをした成人女性が、12歳設定のSNSで友達募集をすると、2458人もの成人男性が群がる」様を記録したドキュメンタリーだ。映像はチェコ警察から刑事手続きのために要求され、実際に犯罪の証拠となった。  先に申し上げておくと、その触れ込み以上に本作で描かれる内容はショッキングだ。気持ち悪いだとか、クズだとか、そういう言葉でも生ぬるい鬼畜たちの所業を見て、目を背けてしまう、本気で気分が悪くなる方もいるだろう。  しかし、この「最悪な現実」を知ることにはとてつもない意義がある。映し出されているものが作り物ではなく本物だからこそ、この世に偏在する事実をはっきりと認識できる。特に未成年の子どもを持つ親御さんは「絶対に子どもをこんなに目には遭わせない」と固く誓えるのではないか。その意味で(R15+指定がされているが)多くの人に観てほしいと心から願える内容だった。  加えて、ただおぞましいだけでなく、先の展開が気になりグイグイと惹きつけられ、あまりの事態の滑稽さに笑い、思いがけない感動も待ち受けているという、(この題材に対して使う言葉としては不適切かもしれないが)エンターテインメントとしても抜群に面白い作品でもあった。さらなる作品の特徴を、大きなネタバレにならない範囲で以下よりあげていこう。

躊躇のない性的虐待のおぞましさ

 2017年秋のチェコにて、ヴィート・クルサーク監督は、インターネット上で急増する子どもたちへの虐待の事実に注目させるための映像の作成を依頼される。テストリサーチを重ねた後、ニセの12歳の少女のSNSアカウントを作成したところ、わずか5時間あまりで総勢83名の成人男性がコンタクトを取ってきた。そして、お互いに自慰行為をすることを提案してきたり、自身の男性器の画像やポルノへのリンクを送り付けてくるなど、おぞましい行為が連続した。監督たちは、このことを短い映像ではなくドキュメンタリーとして製作すべきだと結論づけ、プロジェクトは始まった。
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 巨大な撮影スタジオに作られた3つの子ども部屋で、幼い顔立ちをした3名の女性(18歳以上)がニセのSNSアカウントで12歳の少女のふりをする任務を与えられた。各々の部屋のパソコンで、連絡をしてきたすべての年齢の男性とコミュニケーションを取ると、やはり同様に性的虐待をする者ばかりが現れる。10日間に渡り、精神科医、性科学者、弁護士、警備員など、専門家の万全なバックアップやアフターケアを用意しながら撮影は続けられ、最終的にコンタクトを取ってきた成人男性は2458人にのぼった。  まずショックを受けるのは、彼女たちにコンタクトを取ってくる男性たちが、すぐに性的虐待の行為に及んでいることだ。会話を初めて間もなく、12歳の少女とだと思い込んでいる相手に性的な話題をふっかけ、全く躊躇する様子もなく、自らの自慰行為の映像や、屹立した男性器の写真を送りつけてくる様は醜悪そのものだ。

犯罪行為のオンパレード

 性的虐待を嬉々として行う男たちの姿は、不安を煽る重低音のBGMの演出も合間って、下手なホラー映画よりも恐ろしい。「これでもか」という数の屹立した男性器の写真が次々に映し出される様は、地獄絵図以外の何物でもない。過激な映画におけるボカシやモザイク処理は邪魔に感じてしまうこともあるが、今回に限っては「ボカシがあって本当によかった」と心から思えた。  大人が外側から観ているだけでも吐き気を催すほどのこの状況を、実際に未成年の少女が当事者として目の当たりにしたら、どう思うだろうか。劇中で「待って、本当にキツい」と女性がスタッフに訴える場面があるが、実際にこうした被害に遭っている子どもは、このように外部にすぐに救いを求めることもできないだろう。
©2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

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 そして、撮影現場にいた弁護士からは「子どもに対する違法行為、犯罪行為のオンパレードだ」「性行為がなくても性的虐待にあたる」「これほど最悪な虐待行為は初めて見たよ」「君たちが相手にしているのは刑務所に入って当然のやつらだ」と断言される。劇中の性的虐待の行為、特に屹立した男性器の画像の連続は(ボカシがあったとしても)本当に見ていてキツいが、「性暴力」の強さ、その罪の重さをはっきりと知るという意味でも、必要なシーンであった。
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