歯科医向けのマーケティングセミナーがトラブルを誘発することも
――歯科矯正のトラブルの原因はどのようなものなのでしょうか。
平出:トラブル発生の原因には、主に不適切と思われる医療情報の発信や治療環境があります。現在「歯科矯正」を標榜する歯科医院は全国で約3万ありますが、歯科矯正は資格制度ではないので、主に歯科矯正を手掛けている歯科医でなくとも「歯科矯正」と標榜することや治療を実施することが自由にできます。
しかし、このような状況は、症状に合った治療施設を探せないばかりか、適切な処置や対応をしてもらえずトラブルを生み出してしまいがちです。特に、一方的に発信されるインターネット上の安易な情報もトラブルに発展する要因です。「すぐに治ります」などの目障りの良い、耳障りの良い情報に接すると、患者さんは過度の期待を持ってしまいます。目新しい治療法を採用し、従来にない使用装置を使っていると患者さんは治療結果に過大な期待をしてしまう。そのことからトラブルが発生しているんですね。
目障り、耳障りの良い情報が患者さんにとって有益かどうかは分かりません。しかし、患者さんが様々な情報に惑わされるようになるとトラブルに一歩近付いていると感じます。
また、トラブルに対する説明や対応の欠如も原因となります。「質問したいが忙しそうで嫌な顔をされる」「今日の治療内容の説明がない」などがその例です。
そして、患者さん自身がトラブルの原因となることもあります。例えば「歯は抜かないで欲しい」「表向きには見えない装置で短期間で治療を終えたい」など勝手な主張をする、また無理な予約や治療終了時の勝手なゴール設定、無断キャンセル、口腔内清掃の欠如、治療に対する協力の欠如など、治療に支障をきたすような要求はやはりトラブルの原因になりかねません。
さらに、近年では、歯科医向けの歯科医院の経営セミナーや矯正治療のセミナーなどがトラブルを誘発しているケースもあります。特にHPのSEO対策などいわゆる宣伝・マーケティングのセミナーでは、歯科医に対して新規の患者獲得方法を伝えています。
そして、そのセミナーの教えに従って、口コミを自作したり、過剰な宣伝をしてしまい、歯科医自身が意識せずともHPの文言が法律に違反した不当表示になっている場合もあるんですね。
このように、歯科矯正治療に生じるトラブルの誘因、原因は多岐にわたります。
――HPの「『最先端の治療』を施せばすぐに治ります」などの記載を患者さんが安易に信じ込んでしまったことでトラブルになってしまったケースもあると聞きました。
平出:歯科矯正の材料や装置の開発は歯科医療、学問にとって重要であることは疑いようがありません。しかしそれらのものが適切に活用されることが前提です。最近ではワイヤーを用いない矯正、インプラント矯正などが話題になっていますが、従来の治療方法に比べてそれら全てが治療能力が高く優れていると判断することに対しては疑問視する意見も多くあります。
検査方法や診断においてもデジタル機器の活用が広がっていますが、症状をアナログで観察することが古いわけではないことも認識しておくべきです。