――歯科矯正のトラブルには、どのようなものがあるのでしょうか?
平出:長年歯科矯正治療に携わる中で、矯正治療におけるトラブルは実際どの程度発生しているのか、また治療に関係する医療従事者が、治療の流れの中で、どのようなトラブルに直面しているか、ということをテーマに調査をしてきました。
具体的には初診受付から治療終了までの間、受付、歯科医師、歯科衛生士の誰にいつ、どのようなトラブルが発生したかを調査しました(インターネットによる調査/回答数218)。その結果、受付(21.3%)、歯科医師(64.5%)、歯科衛生士(14.2%)に何らかのトラブル発生傾向がみられました。
トラブルの内容は軽度のものから訴訟に及ぶものまで多様です。発生時期については治療中が多いものの、治療終了後に不具合が発生して後追いのような形でトラブルが発生することもあります。
実際の処置では「治療結果の相違(イメージの相違)、治療の長期化、正中線(上の歯と下の歯の真ん中の線)のズレ、治療中生じた変色歯/歯肉退縮/癒着歯/虫歯」などが挙げられます。
また、一旦生じたこれらのトラブルへの対応もその対応次第でさらにトラブルを加速させています。例えば、治療の中断や転院、それに伴う治療費の清算などに関する事務手続き上のトラブルも少なくありません。
そして、あまり表沙汰にはなっていませんが治療環境からくるトラブルもあります。「担当医が代わって急に治療方針が変わった」「歯科医師が非常勤なので、装置が外れた時などに緊急時にすぐに対応してくれなかった」という声もよく聞きます。加えて、歯科衛生士が矯正器具の装着などで実質的に治療へ関与していることも問題視されています。
このようにトラブルには、実際の処置の問題の他、治療環境なども含まれます。これらの問題は深刻化すると裁判になることもあります。最高裁判所統計資料の診療科目別訴訟事件数によれば、全体における歯科の割合は、2006年が6.6%、2011年が9.8%、2017年が11.6%と増加傾向がみられます。自費治療が主であるインプラントなどの歯科矯正のトラブルは今後も注視するべきです。