女性宇宙飛行士が抱える「母親」の重み。映画『約束の宇宙』が突きつけた男社会の問題とは

山崎直子のコメントからわかること

 この『約束の宇宙』の原題であり劇中のプロジェクトの名前である「Proxima」は、太陽系から最も近い恒星の名前であり、ラテン語で「最も近い」という意味があるそうだ。その意味は、女性宇宙飛行士である山崎直子による、本作へ寄せられた以下のコメントでわかる。 宇宙から帰還したとき、そよ風や緑の香りに感動しました。 当然のようにある空気や、身近にいる家族も、決して当たり前ではなく、とても有り難いと。 完璧な宇宙飛行士なんていない。完璧な親も。 周囲に支えられていることに感謝し、子供も大人も葛藤しながら成長していくのだと、 心を照らす星は、案外身近に、当たり前と見過ごしてしまいそうな中にあるのだと、 気づかせてくれる映画です。  劇中では、実際に宇宙へ旅立つ前の主人公のサラが、地球での風の肌触りや、四季の美しさを噛み締めるシーンがある。「完璧な宇宙飛行士なんていない、完璧な母親なんていないのと同じように」というセリフもある。そのような「身近なこと」「当たり前のこと」が心を照らす星になるのだと、「最も近い」という意味の「Proxima」をもって表現していたのだろう。

監督の出世作『裸足の季節』も要チェック

 『約束の宇宙』のアリス・ウィンクール監督は、『裸足の季節』(2015)という映画の脚本で国際的に高い評価を得ていた。こちらは「事故で両親を亡くした5人の姉妹が、祖母の家で厳格で一方的な価値観を押し付けられており、そこから脱却する」様を追ったドラマだった。
©Carole BETHUEL   ©DHARAMSALA& DARIUS FILMS

©Carole BETHUEL ©DHARAMSALA& DARIUS FILMS

 『裸足の季節』と『約束の宇宙』は、「古い戒律や習慣のために虐げられている女性に救いをもたらす物語」であることが共通しており、それは明確な監督の作家性なのだろう。いずれも女性はもちろん、男性にとっても学ぶことが多い作品だ。どこか別の世界の話ではなく、身近にある問題を描いた作品であることを踏まえて、ぜひ合わせて観てほしい。 <文/ヒナタカ>
雑食系映画ライター。「ねとらぼ」や「cinemas PLUS」などで執筆中。「天気の子」や「ビッグ・フィッシュ」で検索すると1ページ目に出てくる記事がおすすめ。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF
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