女性宇宙飛行士が抱える「母親」の重み。映画『約束の宇宙』が突きつけた男社会の問題とは

©Carole BETHUEL ©DHARAMSALA& DARIUS FILMS

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 4月16日より、フランス映画『約束の宇宙(そら)』が公開されている。本作は『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)や『ダンボ』(2019)で知られるエヴァ・グリーンの主演作にして、架空の女性宇宙飛行士の姿を追ったドラマである。  一見すると、SF作品に思えるかもしれないが、実際の本編に現実離れしたファンタジー的な描写は全くと言っていいほどない。主に描かれるのは、スーパーウーマン的な人物ではなく、ごく普通の母の顔を持つ女性宇宙飛行士の姿であり、それこそが重要な内容であった。さらなる作品の魅力や特徴を、以下に記していこう。

「永遠の別れ」を覚悟する職業

 宇宙飛行士のサラに、人類初の火星探索への最終準備を目的とした、国際宇宙ステーションへの滞在が命じられる。それは宇宙に行くことをずっと夢見てきたサラに巡ってきた大チャンスだったのだが、彼女には7歳の娘のステラがいた。地球を離れるまでの訓練期間はたったの2ヶ月の上、その後は約1年間宇宙にいるため、その間はステラとずっと離れ離れにならなければならない。ステラは別居中の父の元に預けられるものの、サラは連日続く過酷な訓練や娘の不在という環境に疲れ果て、心身のバランスを崩していく。
©Carole BETHUEL   ©DHARAMSALA& DARIUS FILMS

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 娘のことを心配してしまうのは、自身が宇宙飛行士であり、いずれ(早くに)命を落とすかもしれないからであり、娘に学習障害があるためでもある。  「永遠の別れ」すらも覚悟しなければならない上に、そうでなくても地上に残された娘がちゃんとやっていけるかどうかずっと気になってしまう……娘はそんな母を心配させまいと健気にも明るく振る舞っているが、やはり心の平穏が訪れることはない。  これは、女性宇宙飛行士という特別な職業を描くことで、世の中の普遍的な母親の気持ちを、より強調して語った内容と言える。子どもが幼い時に自分が命を落としてしまうのではないかという恐怖、子どもと(一時的にでも)離れ離れになってしまった際の心配、はたまた自身の仕事だけで憔悴しきってしまうこと……それらは母親であれば少なからず体験するものだろう。劇中の主人公のサラには、それらが強くのしかかってくる。その辛さは、母親でなくともきっとわかるはずだ。

男性優位の環境がもたらすもの

 主人公のサラが憔悴してしまう理由は、男性優位の環境にもある。宇宙滞在経験がある男性が、新メンバーに選ばれたサラへの言葉の端々に失望をにじませ、邪魔者のように扱ってしまうのだ。  その男性が発する言葉には、女性差別であると断言しにくく、グレーではあるが、だからこその嫌らしさがある。例えば、「訓練のスケジュールをもう少し軽くしてもらえ」とサラに告げるシーンでは、「全部をこなす必要はない。そうするのが君のため、関係者全員のためだ。君の能力を問題視しているわけじゃない。訓練の軽減は侮辱じゃないし、観光客扱いする気はないさ」と(建前として)「女性であること以外」の理由を並び立てる。
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 サラはその時に「私の能力の何を知っているの?」と憤り、そして見返そうと連日の訓練を好成績でこなしていくのだが、その訓練そのものの過酷さもあって、やがて彼女は決定的な失敗をしてしまう。やはり女性(の能力)を軽んじる体制や思い込みこそが、結果的に彼女を苦しめてしまっているということは間違いない。
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『82年生まれ、キム・ジヨン』を連想する理由
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