©Carole BETHUEL ©DHARAMSALA& DARIUS FILMS
劇中では苦しんでしまうことが多い主人公のサラだが、アリス・ウィンクール監督は彼女をある種のヒーローだ考えていたようだ。そのキャラクターを構築するにあたって、監督は「女性主人公の映画には、ヒーローであるのと同時に、母親であるキャラクターはほとんど存在しないのではないか」という長年の疑念に向き合っていたのだという。
言われてみれば、近年アメコミのスーパーヒーロー映画には「ブラック・ウィドウ」や「キャプテン・マーベル」や「ワンダーウーマン」という魅力的な女性ヒーローはいるが、彼女たちは母親ではない。宇宙飛行士という子どもたちがヒーローとして憧れる職業に就き、なおかつ母親でもあるサラは、確かに新しい女性ヒーローの姿として映るだろう。
そして、劇中でサラは女性として、娘を持つ母親として、自身の壁を乗り越えていくことになる。その姿は実際の女性宇宙飛行士だけでなく、全ての母親にとっての希望になり得るはずだ。
劇中の宇宙飛行士の訓練が、ドキュメンタリーを見ているかのようにリアルであることも特筆すべきだろう。何しろ、撮影は欧州宇宙機関(ESA)全面協力のもと実際の施設で行われ、訓練に使用する小道具もすべてESAから提供された本物なのだから。
そして、宇宙飛行士が宇宙へと旅立った後ではなく、その「前」である訓練をメインに描くということは、本作の大きな特徴だ。現実の宇宙飛行士は人々を魅了するミッションが話題に上がりがちであるが、実際は地球を離れるまでに膨大な労力と時間をかけており、その仕事や生活を映画でリアルに追うことも本作の命題であったのだ。
©Carole BETHUEL ©DHARAMSALA& DARIUS FILMS
前述してきた、主人公の母親だからこその苦悩や、男性優位の環境は、リアルな訓練シーンがあってこそ、より明確に伝わるようになっている。