「宗教2世問題」メディアによる不用意な一般化と「コンテンツ化」への危惧<NHK特集から見える第三者にとっての課題(1)>

洗礼

とある宗教団体の洗礼を受ける子供の信者、それを見守る信者たちの 中にも幼い信者の姿が

NHKが取り上げた「宗教2世」問題への疑義

 NHKハートネットTVの「宗教2世」のドキュメンタリー番組に対して、鈴木エイト氏が、「カルト問題」の構造を示さないまま「宗教2世」として一般化することへの疑義を論じた。 ●NHK、「宗教2世」番組を放送。カルト2世問題を“宗教”に一般化する危うさ  当事者の声を拾い上げ、不十分とは言え問題の存在を広く示してくれた点は評価するし、その点を評価する意見に対して異論はない。しかしハートネットTVの番組内容は、カルト問題に対する問題意識の提示が「不十分」なのではなく「皆無」だった。程度の問題であればいちいち目くじらを立てて批判する必要もないが、極端に一面的であることには問題を感じる。  一方で、当事者である2世自身が発信する意見や概念をどう扱うかという点で、私は鈴木氏とは少々違う意見を持っている。意見の内容は大して変わらないが、「力加減」が違うと言った方がいいかもしれない。  鈴木氏は記事で、当事者が「カルト2世」ではなく「宗教2世」という言葉や概念を提唱している点に違和感を表明している。しかしそこには当事者ならではの問題意識や目的意識があり、メリットもあるのではないか。それも意識しながら、鈴木氏の議論を補完したい。

単なる親子問題でも単なる信仰問題でもない

 ハートネットTVの番組での「宗教2世」という一般化の問題について、鈴木氏は上記の記事でこう書いている。 〈具体的な教団名こそ出していないものの、エホバの証人(ものみの塔聖書冊子協会)や統一教会(天の父母様聖会世界平和統一家庭連合)を脱会した元2世信者が自身の苦悩や葛藤、親との関係性や自身の子どもへの接し方などを語る内容で、実質的に「カルト2世」の問題を扱ったものだ〉 〈団体・組織が持つ特性として人権侵害や精神的(時には肉体的)虐待が不可避な状態で2世に圧し掛かっているのが「カルトの2世問題」である〉  さらに鈴木氏は上記の記事の中で、番組ディレクターによる〈「親は憎くないのか」という問いかけに当事者たちの答えは「憎くはない」でした〉というツイートを批判している。鈴木氏の批判は〈「親を憎むべきではない」が“正しい2世の心構え”としてスタンダード設定されてしまうことは、2世の多様性の否定になりかねない〉というものだ。私は、どちらをスタンダードとするか以前に、そもそも親子間のみの関係に特化するディレクターの発想に違和感を抱く。  カルトにおける2世問題は、カルトによって人為的に組織的に生み出されたものだ。単なる「親子関係の問題」ではない。
次のページ 
からみあう加害者性と被害者性
1
2
3
4
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会