「宗教2世問題」メディアによる不用意な一般化と「コンテンツ化」への危惧<NHK特集から見える第三者にとっての課題(1)>

からみあう加害者性と被害者性

反マスクを掲げる宗教団体の信者親子

幸福の科学信者がコロナ禍でもマスクを着けなかったり、子供を集会につれていくのも、親の独断ではなく教義や教団の方針によるものだ

 カルトにおいて、親たちはただ単に「信じている人」ではない。  信じなければどうなるか、信仰や組織の方針に反する行動をとったらどうなるか。団体によって用語や概念は違うにせよ、それは「地獄行き」に相当する「サタンの行い」とされたりする。特に、教義や組織の方針に反する身内へのカルト内部での反感や攻撃性は、信仰を持たない人に対するものより厳しい。  これはカルトに限らず、どんな人間集団でも同じだろう。自分が関わる組織や集団を想像してみるといい。人権問題に取り組む団体ですら、対立する身内に対しては人権もへったくれもない理不尽なハラスメント等をしてきたりする。日本脱カルト協会という、カルトの人権問題に取り組む団体の理事会ですら、いままさにその状態だ。ましてやそれがカルトとなればなおさらだ。  そんな構造の中で、たとえば「ものみの塔」では、信仰に反する者として「排斥」処分とされた信者に対して実の親兄弟である信者ですら口をきかないといったことも起こる。「信仰を捨てた息子がムカつくから」といったような親の勘定による独断ではない。これが「ものみの塔」という集団のルールや慣習として確立されており、何なら個別の場面でもこれに従うよう親に指導や圧力をかけてくる。  子供に悪影響を及ぼす親も、カルトにおいては集団にコントロールされ子供との関係を悪化させる行動に走らされた被害者とも言える。  親子関係に限らずカルトでは、個別の信者の中に被害者性と加害者性が入り組んで存在している。入信した人は勧誘する側に回り、相手を騙して入信させたり霊感商法等で金を巻き上げたりという加害者としての活動もするからだ。精神的な束縛の構造も、団体の指導者だけが作り出しているのではなく、信者同士が互いに交流する中で信仰を深めあったり、あるいは信仰に反した信者を批判したり上層部にチクったりという調子で、下っ端信者も集団内の同調圧力を維持し発揮するための機能を持っている。  しかしその信者自身たち自身も、教義に縛られ金や労働力を団体に収奪されている。加害者性があるからといって被害者性がなくなるわけではない。教義や教団による信者への統制、信者間の同調圧力などに縛られた親が、子供との間に「2世問題」を引き起こす。  組織や集団の側の問題に構造に触れないということは、「批判すべき相手を批判しない」という問題にとどまらない。根本的な問題の所在を不明確にしてしまえば、相対的に親の「自己責任」が増してしまう。親もまた、カルトから人権を侵害されている被害者性を併せ持っているにも関わらず。  組織や集団の問題にも触れながら、当事者が親を恨んでいるかいないかという話をするならわかる。しかし組織や集団の問題に触れずにそれをやるなら、結局は「親が悪い」という話にしかならない。子供が親を恨んでいようがいまいが、家庭や親子の関係について最も責任があるのは通常、オトナである親なのだから。

寺の跡継ぎ問題とは違う

 「カルト問題」において、「宗教」と「カルト」との間に明確な境界線はない。人権侵害の深刻さや組織制・反復性などが判断基準なので、宗教団体以外(スピリチュアル団体、個人事業の占い師、マルチ商法、政治セクトなど)も含む。宗教に関しても、伝統の有無や信仰の対象が何であるのかによって区別することもない。  しかし「宗教」と「カルト」を一緒くたにすることもしない。騙したり脅したり、あるいは霊感商法や虐待やテロのようなカルトの問題は、たとえば「宗教の関係でちょっと嫌な思いをさせられた」というレベルの問題とは構造も深刻度も違う。  しかし宗教団体側の問題を提示せず、「信仰を持つ親」と子供の関係に特化して見せれば、たとえば「寺を継げと親がうるさい」という類の話と区別がつかない。現に私の視野に入る範囲でも、ハートネットTVにからめてこの手の持論を語り、2世問題を我田引水的な自己PRに利用している僧侶が発生している。  伝統宗教であろうが何だろうが、深刻な人権侵害が伴うケースなら「カルト2世」と似ていたり結果は同じだったりするかもしれないが、単純に一般化してしまうと、カルトにおける2世問題の深刻さが希釈される。
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「国歌を歌えない」は2世問題なのか
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