また今回の番組に欠けていたのが、2世たちが受けてきた様々な被害は我々の社会の無関心・無知・偏見によって齎されてきたという視点である。その指摘があれば、少なくとも視聴者は自身に直結した問題であると受け止めることができた筈だ。それは2世たちが直面する生きづらさの軽減に繋がる。
カルト2世当事者のうち、時間をかけて自身の経験を対象化し客観的に総括できている人は一部に限られる。カルト2世は成長過程において自由な意思決定を阻害されていたためか、対人関係スキルや社会的な経験値の低さと相俟って脱会後の社会生活を送る上でトラブルに直面しやすい傾向も指摘されている。
葛藤や生きづらさを抱えたまま社会に適応することが困難な状態に置かれている2世は多い。そんな大人になったカルト2世たちを「カルトアダルトチルドレン(CAC)」等の呼称で可視化していくことも、今後の2世問題の周知では必要となっていくだろう。
2月20日、ハートネットTVサイトの投稿フォームへ、筆者の懸念を記した上で今回の番組において「宗教2世」とした理由や経緯について問い合わせた。2月25日にNHK広報局から来た回答は素っ気ないものだった。
「個別の番組の制作過程についてはお答えしておりません」
公共放送で「2世問題」を取り上げた意義は大きい。しかし、その公共放送においてカルトの2世問題を「宗教2世」と“宗教”に一般化したことには異議を表明しておきたい。
これまで筆者は山口県岩国市の自治体直営施設内で起こった “レリジャスハラスメント(*立場を利用した宗教勧誘/religious harassment)”事件を報じた
本サイト記事で、天理教の“里親連盟福祉活動”における里子への教化に言及するなど人権侵害を伴う広義の「信仰継承」問題について書いてきた。
その上で、カルト宗教における苛烈な人権侵害を伴う2世問題は、冒頭で触れた寺や教会の跡継ぎ問題のような一般的な信仰継承に纏わる“葛藤”などとは全く次元が異なるものであることだけは強調しておきたい。
憲法20条の「信教の自由」には、当人の「信仰しない自由」と親による「宗教教育の自由」がせめぎ合う。カルト宗教の2世問題を考える際に相反するこれらの「信仰の自由」についての議論はここでは措き、別の機会に提示したい。
<取材・文/鈴木エイト(ジャーナリスト)>