直前でのトークイベント名称変更「カルト2世」はNGワードなのか
当事者への配慮が働いたケースには先例がある。
毒親系の作品を発表している漫画家の菊池真理子氏と生きづらさをテーマにする朗読詩人の成宮アイコ氏が企画・司会を担い、ゲストにエホバの証人2世で詩人のiidabii氏と創価学会2世のネイキッドロフトスタッフ幸氏を迎え1月16日に開催された『宗教2世と機能不全家庭〜うえつけられた価値観から逃げたい!』という配信トークイベントだ。
昨年12月に発表された際のイベントタイトルは『カルト2世と機能不全家庭〜うえつけられた価値観から逃げたい!』だった。しかし、1月8日になってタイトル内の「カルト2世」が「宗教2世」へと変更されたのだ。
イベント冒頭、タイトル変更の理由について成宮氏から「当事者2世からの要望」と説明があった。質問箱サービス“マシュマロ”での菊地氏と2世とのやり取りが背景にあったようだ。
当事者である2世が「カルト」という言葉を忌避する心情は理解できる。但し、そのことによって問題を正確に捉えることができなくなったり、不可視化してしまうようでは本末転倒だ。
当事者からの要望や企画・制作側の配慮によって「カルト2世」表記が排除される事例は今後も起こり得る。
ハートネットTVの番宣には『「宗教2世」と呼ばれる人たち』とあるが、一部の当事者が使う「宗教2世」をメディアまでもが率先して“採用”することによって「『カルト2世』ではなく『宗教2世』にすべき」ということがこのまま既成事実化してしまうと、今後「カルト」という言葉自体が禁句扱いされかねない。それは間違いなく
「カルトにおける2世問題」の周知や理解への妨げとなる。
カルト団体に共通する問題の本質は
人権侵害にあり、カルトにおける2世問題はその人権侵害の最たるものだ。団体・組織が持つ特性として人権侵害や精神的(時には肉体的)虐待が不可避な状態で2世に圧し掛かっているのが「カルトの2世問題」である。
「カルト」という言葉を使わなくても、2世への深刻な人権侵害の構造を提示することは可能だ。だが、今回のハートネットTVのように、その本質や枠組みを意図的に排除した状態では問題の全体像を示すことはできない。
カルト問題の文脈の中での「2世問題」を「宗教2世」としてしまうことが決定的におかしいと筆者が感じる根拠は、宗教系カルトの諸問題に対するこれまでの議論の蓄積にある。
我々の社会は一連のオウム真理教事件への考察を経て、学んだ筈だ。問題の核心は「宗教」ではなく「カルト性」にあったことを。社会の至る所にカルトの萌芽はある。
2世問題が「カルト」ではなく「宗教」の問題と一般化されてしまうことは、カルト問題に対するこの25年間の歩みを無にするばかりか、社会の認知が誤った方向へ進みかねないと危惧する。