オンライン形式で行われたG7サミット2021 (Photo by Dursun Aydemir/Anadolu Agency via Getty Images)
2021年2月19日
、G7(主要7カ国)はオンラインで開かれた首脳会議の後、ワクチンを始めとする新型コロナウイルス対応等の方針が述べられた首脳声明を英語で発表した。この首脳声明では東京オリンピックについても言及されており、日本政府は「
人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、五輪を開催する日本の決意がG7に支持され、その点が首脳声明に明記された」という主旨の発表をした。しかし、首脳声明の英語原文を確認すると、この政府発表に「ニュアンスの差異」があることがすぐに分かる。それにもかかわらず、多くの国内メディアは政府の大本営発表をそのまま垂れ流し、「誤訳」なのではないかとSNSでも物議を醸した。
そこで本記事では、首脳声明で東京五輪について言及された箇所に着目し、日本政府の発表内容とどのようなギャップがあるのかを明らかにし、メディアがどのように報じたかのかを検証していく。
まず、首脳声明の英語全文を確認すると4880字もあるが、東京オリンピックについて言及されているのは最後のわずか3行であり、146字に過ぎない。国内メディアはG7後に東京オリンピックに関する内容を重点的に報道していたが、そもそも文字数にして全体のたった3%程度しか割かれていない議題だったことが分かる。
〈*英語全文は外務省Webサイト「
G7 Leader’s Statement 19 February 2021」を参照〉
以下、東京オリンピックについて言及した箇所を原文のまま引用する。
「
we support the commitment of Japan to hold the Olympic and Paralympic Games Tokyo 2020 in a safe and secure manner this summer as a symbol of global unity in overcoming COVID-19. 」
直訳すると、以下のような意味になる。
「
新型コロナウイルスを克服した世界的な団結の象徴として、今夏に東京オリンピック・パラリンピックを安全・安心に開催する日本の決意を支持します。」
一方、日本政府の発表は以下のようなものである。
〈*外務省Webサイト「
G7首脳テレビ会議」より東京オリンピックに関する箇所を引用〉
「
菅総理大臣より、人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催する決意を述べ、安全・安心な大会を実現するために、IOCとも協力し、準備を進めていく旨発言しました。日本の決意に対し、G7首脳からの支持を得て、この点が首脳声明に明記されました。」
G7が日本の決意を支持したことは事実だが、G7が日本のどのような決意を支持したのかという点において、G7と日本政府の発表内容に大きなギャップがあることにお気づきだろうか。そのギャップをスライドを用いて図解していきたい。
〈*本記事をスライドが表示されない配信先で読んでいる方は、ハーバー・ビジネス・オンラインの本体サイトでご確認ください〉
G7が支持した内容は何だったのか。上記の原文に基づいて両者の発表を整理すると以下のようになる。
G7の発表:
新型コロナウイルスを克服した世界的な団結の象徴として、安全・安心に五輪を開催するという日本の決意
日本政府の発表:
人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、五輪を開催するという日本の決意
G7は
「世界的な団結の象徴」として「安全・安心」に五輪を開催することを支持したのであって、日本政府が主張するような
「人類が新型コロナウイルス に打ち勝った証」として支持したというのはだいぶニュアンスが異なる。英語の原文を読めば分かる通り、そのようなニュアンスは一言も書かれていない。それにもかかわらず、「この点が首脳声明に明記されました」という政府の主張は真っ赤な嘘と言わざるを得ない。