反対する論理に目を向けることを妨げる「反発」という表現

国民を政治に近づける報道か、遠ざける報道か

 「野党は反対ばかり」「野党は感情的ですぐ怒る」「失点ねらいでどうでもいい追及に時間を費やし、大事な問題を取り上げない」――そういった印象操作が、この間、繰り返されてきた。そのことは、政治にうんざりする人を増やしただろう。政治報道や国会報道を見てもイライラするだけだから、見たくない、という人を増やしただろう。  それは、政府与党にとっては好都合な状況なのだ。実際に野党が何を指摘し、何を主張し、野党と政府与党、どちらの主張がもっともであるかをみずから判断する人が増えるならば、野党に投票する人も増えるだろう。それは、政府与党にとっては望ましい事態ではない。国民には、政治にうんざりして、目をそむけていてくれた方がよいのだ。  今回、組織委員会の会長の座を降りることを余儀なくされた森喜朗氏は、首相であった2000年夏に、衆議院選挙の投票日5日前に講演でこういう発言をおこなっていた。 「まだ決めていない人が40%ぐらいある。そのまま(選挙に)関心がないといって寝てしまってくれれば、それでいいんですけれども、そうはいかない」  今でも自民党の方々の有権者に対する見方は、似たようなものだろう。  国会の実情が見えないように、政治の実情が見えないように、政府与党やその支持者によって、厚く煙幕が張られている。その現状を認識した上で、その煙幕の向こうにある政治の実情、国会の実情に国民の目が向くためには、どういう言葉遣いが必要であるかを、政治報道に携わる記者の方々には考えていただきたいのだ。

「野党は反発」の見出しは控えて

 具体的に提案しよう。見出しに「野党は反発」という表現は控えてほしい。見出しの「野党は反発」は、「野党は反対ばかり」という印象を強化することにつながる。ツイッターにその見出しが流れてきても、クリックして中身を読んでみようとは思わず、「何やってんだ、野党は」といううんざり感を高めるだけにしかならない可能性が高い。  「野党は反発」ではなく、見出しには、野党がなぜ政府に反対しているのか、何を主張しているのか、その論理を、少しでも見せてほしい。  例えば下記の毎日新聞の見出しは、野党と政府の双方の主張が併記されている。 ●衆院予算委 危機管理巡り、新旧首相舌戦 菅氏「官邸まで歩いて10分」/野田氏「公邸住まず意識欠如」(毎日新聞、2021年2月16日)  下記の朝日新聞の見出しは、「反発」ではなく「紛糾」という言葉を用い、「紛糾」した原因は答弁側にあることが示唆されている。 ●接待疑惑で委員会が紛糾 「調査中」盾に解明引き延ばし(朝日新聞、2021年2月15日)  他方で、産経新聞の下記の記事の見出しは、野党はただ攻撃材料を探しているかのような印象を与える。 ●野田元首相が予算委に 野党、五輪混乱や菅首相長男問題で攻撃(産経新聞、2021年2月15日)  本文にも、「首相は17日から始まる新型コロナウイルスのワクチン接種を契機に、低迷する内閣支持率の回復に結び付けたい考えだが、野党は出はなをくじこうと躍起になった」とあり、まるで国会は支持率争いの場でしかないかのような書きぶりだ。  また下記の時事通信の記事は、首相側の「反論」だけが記されており、菅首相が公邸に入居していないことをなぜ野党が批判しているのか、その論理が見えない。 ●菅首相、緊急事態「しっかり対応」 公邸未入居、批判に反論  記事を紙面ではなくデジタル記事で読む人が増えている現在、見出しに何を書くかは、読者がその問題をどう受け止めるかに、以前より強い影響を与えるようになっている。そのことも勘案し、限られた字数だからと「野党は反発」と安易にまとめることは控えていただきたい。  また、本文に「野党は反発」と記す場合には、その「反発」の背後にどのような論理があるのかも、あわせて紹介していただきたい。そして、そこでは「反発」という表現がもっともふさわしいのか、別の表現の方がふわさしくはないか、この記事で取り上げてきた問題と照らし合わせて、考えていただきたいと願う。
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「野党は反発」という言葉が見えなくしてしまうこと
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上西先生による本サイト連載「政治と報道 報道不信の根源」が本になりました! 本連載及び上西先生による過去執筆記事を「政治と報道」をテーマに加筆・編纂。いまの国会で何が起きていて、それがどう報じられているのか? SNSなどで国会審議中継をウォッチしている人と、ニュースでしか政治を見ない人はなぜ認識が異なるのか? 政治部報道による問題点を、市民目線で検証しています。

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