人間がまだ狩猟を行っていた時代は、狩りで命を落とすリスクが常にあったほか、外敵に殺される可能性もあった。その環境で生き延びるためには、不安やストレスを感じ、戦うにしても逃げるにしても、生存のために適切な行動を取れる状態にすることが必要だった。
たとえ危険の察知が勘違いであっても、何も感じなかったために行動が遅れるよりは生き残れる可能性は高い。普段の生活で人間が様々なことに不安を抱くのは生存のための反応だ。
危険が迫った際の適切な行動に備える状態を作る役割を担うのが、脳にある「HPA系」(視聴下部・下垂体・副腎系)という器官。生命が危機に晒されるような状況では、HPA系がコルチゾールというホルモンを分泌して心臓の拍動を強め、敵と戦うか逃げるかのアクションを起こせるようにしている。
現代では猛獣に命を狙われることは稀だが、「仕事の締め切りや高額な住宅ローン、『いいね』があまりつかないといったことで同じシステムが作動する」という。(『スマホ脳』より)
こうした緊張状態が長期間続くと、心身に不調をきたすようになる。理由は、脳が「即座に解決すべきこと以外のことを放棄する」ためだ。具体的には、睡眠や消化活動、性欲の減退などが該当する。
もちろん脳の機能としておかしいことではないが、睡眠不足が続けば頭がうまく働かないほか、些細なことで腹を立てるなど生活の質が落ちてしまう。
スマホを手に取りたくて仕方がなくなるのは、脳の欲求にある
ではこうした脳の作りとスマホの使いすぎにどんな関係があるのだろうか。思い出してほしい。人間の脳は未だにサバンナでの生活に適応しているため、絶えず周りを見て危険を察知し、生き残ろうとする。
そのため脳は新しい情報や知識を求める。「会いたい人に会ってみたい」「この場所に行ってみたい」といった欲求が湧くのは自然なことなのだ。しかし今は自分が動かなくても、スマホがあらゆる情報を提供してくれるため、そうした欲求が自室で満たされてしまう。
「新しいもの好きの脳」と「いつでもどこでも情報にアクセスできるスマホ」がかけ合わさることで、人はついついスマホを手に取って新しいニュースをチェックしたり、SNSを眺めて新規投稿がないかを気にしたりしてしまう。平均すると10分に1回スマホを手に取っているという。
たとえばニュース、メール、SNSなどで何か新しい情報を知ったとする。この時脳内では、「祖先が新しい場所や環境を見つけたときと同じように作用する」と『スマホ脳』では説明している。