スポーツ界の感覚では「後任川淵」は妥当? その実績と危惧される要素

セクシストが去ったのにレイシスト?

 川淵氏は、日本サッカー協会の会長を2002年に退いたあと、しばらくは首都大学東京の理事長などの異分野に活動の舞台を移し、一時は政治の世界にも足を踏み入れかけていた。2012年に東京都知事に立候補した猪瀬直樹氏の選挙対策本部長をつとめ、猪瀬辞任後の2013年、そして後任の舛添要一前東京都知事の辞任に伴う2016年の都知事戦への出馬も取り沙汰された。  最近ではSNSなどで右派の識者やメディアなどを取り上げたり、嫌韓や歴史修正主義的発言をすることも多く、その点批判されていることもある。極右と海外メディアに目されることもある石原慎太郎元東京都知事との親しい関係も知られている。 「ただそういう部分はちゃんとわきまえている人ではないでしょうか」とは、JリーグとプロバスケットボールであるBリーグを取材しつづけているスポーツライターの大島和人氏(近著『Bリーグ誕生 日本スポーツビジネス秘史』日経BP)だ。 「例えばJリーグのチェアマン時代に、観客を呼ぶ言葉に『動員』という言葉を使うなと決めたのは川淵さんです。それは戦争をイメージさせるからよろしくないということでした。戦前世代でも、そういうところはキチンとわきまえているし、単に右派とカテゴライズしてしまうのもどうかなと思います」  なるほど、それでは独裁者という指摘はどうか? 「『独裁力』という本を出したくらいで、そういう側面は確かにあるでしょう。ただ、それは曖昧な姿勢を取らないリーダーの姿勢で、尊大さや独善を自分が感じたことはありません。Bリーグの改革では、若い人を積極的に登用して、40も50も年齢が違う人たちとマーケティングやブランディングについて渡り合っていました。バスケットボールの国際的な交渉も先頭に立っていました」  そうすると、この修羅場での五輪組織委員会の会長は適任ということになるのか? 「もともと川淵さんはサッカーの人です。フィールドの違うバスケットボールであれだけやれたのは、私からいわせるととんでもなくすごいことだと思います。それまで動かせない難題を解決した人ですから、それがこの五輪でいい方向に出ればいいと思います。神輿に乗って終わりというタイプではないことは確かです」  新会長の川淵氏に残された時間は6カ月。  長らく川淵氏を見てきた個人としては、Jリーグでは「チェアマン」、日本サッカー協会では「キャプテン」と自らの呼称を変えてきたこともあり、こちらも会長ではなく「プレジデント」にでもするのだろうかなどと、つまらないことも思い立つ。「もし五輪でダメそうだったら、新しくなった国立競技場で川淵解任デモですね」と当時のデモ関係者のサッカーサポーターは笑う。  川淵氏も年齢を考えると、最後の大舞台と言っていいいだろう。まずはお手並み拝見といこう。 <取材・文/清義明>
せいよしあき●フリーライター。「サッカー批評」「フットボール批評」などに寄稿し、近年は社会問題などについての論評が多い。近著『サッカーと愛国』(イーストプレス)でミズノスポーツライター賞、サッカー本大賞をそれぞれ受賞。
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