NHKを本当に「ぶっ壊す」のは、立花孝志氏ではなく報道部門出身の上層部

記者のなり手を増やすには、採用方法ではなく報道の有り様を変えろ

 となると、前回の記事でご紹介した前田会長が掲げる「職種別採用を辞めて一括採用に」という改革方針でいいではないかと思われるかもしれない。ところが、そうはいかないのだ。  何しろ縦割りの強固な組織は現にある。そこをそのままで一括採用をしたらどうなるだろう? 各組織は「少しでも優秀な人材をウチの部署に」と考えて青田買いに走るだろう。新人たちに「うちの部署に来い。悪いようにはしない」と誘いをかけて。  これは実は政治部が得意にしていることだ。地方局に赴任した若い記者たちの中から優秀と思われる者に声をかけ、「政治部に来ないか」と誘う。誘いを受けて政治部に来た記者には、その後のポストをも処遇するから、忠誠心は高まる。  一括採用でこれを始めたら、青田買いされた若者たちは、他の無関係の部署に行きたくないから、その組織にますます忠誠を誓うようになるだろう。強固な縦割り組織は温存されたまま、というか、今以上に強化されかねない。つまり、既存の縦割り組織に手を付けずに新人採用だけを変えても、意味はないのである。  一括採用については、別の思惑もあるという。それは「記者の志望者が少なすぎるから、一括採用で確保した人材の中から記者を育てたい」という狙いだ。だが、これは本末転倒と言うべきだろう。  今、大学でマスコミ、中でも記者を志す学生に就職先の希望を聞くと、NHKを上げる学生はほぼいないという。「え~、NHKって権力の犬みたいじゃないですか」と言われてしまうのである。これではNHKに記者のなり手が来るわけがない。新職員を一括採用しても、記者を志望する人はほとんどいないだろう。  そんな中から無理矢理誰かを記者にしたところで、さっさと辞めてしまうのがオチだ。記者のなり手がないから一括採用するのではなく、記者のなり手が増えるようにNHK報道の有り様のほうを変えるべきなのである。  それにNHKの職種別採用は、一括採用を行っている民放の間では、むしろ高く評価する声がある。記者として、あるいはディレクターとして採用し、専門性を持たせて育成したほうが、本人のためにも組織のためにもなるという見方だ。中には「NHKは断固、職種別採用を守るべきだ」と力説する民放関係者もいる。私自身、NHKで記者として採用され、記者として育成されてよかったと振り返っている。  それを、管理職になり、部長や局長と地位が上がっても、いつまでも職種別で既得権益のポストにしがみつくから、縦割りの弊害が生まれるのである。そこをがらりと変えれば縦割りは変えられるし、政権忖度もなくしていくことができる。そんな話を次回も続けたい。  政権忖度はなぜ生まれるか? NHK上層部と首相官邸中枢との知られざる関係を明らかにすることから、次回の話を続ける。 【あなたの知らないNHK 第3回】 <文・写真/相澤冬樹>
大阪日日新聞論説委員・記者。1987年にNHKに入局、大阪放送局の記者として森友報道に関するスクープを連発。2018年にNHKを退職。著書に『安倍官邸VS.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』、共著書に『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(ともに文藝春秋)
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