NHKを本当に「ぶっ壊す」のは、立花孝志氏ではなく報道部門出身の上層部

総裁選前日、地震のニュースの見出しに「安倍首相」の名前が

 翌9月、北海道胆振東部地震が発生。NHKニュースは「北海道の地震 16人死亡 26人不明 安倍首相」という見出しで被害を伝えた。これを見て違和感を持ったという報道関係者は多い。災害の犠牲者の人数を報じるのに、いちいち時の首相の名前と合わせて伝えたケースがそれまでにあっただろうか?  東日本大震災で「死者●●人 菅(かん)首相」と報じたか? 阪神・淡路大震災で「死者●●人 村山首相」と伝えたか? 被害を集約する警察のクレジットで報道するものだろう。阪神・淡路大震災の時、私はNHK神戸放送局の警察担当記者で、「兵庫県警によりますと死者が5000人を超えました」といった原稿を繰り返し書いた。これが普通だ。  北海道の地震の翌日、自民党総裁選が告示。安倍首相に対抗して石破茂氏が立候補した。首相の名前を地震のニュースのタイトルスーパーに入れるのは、明らかに安倍首相に有利になる。 「安倍首相が会見で人数を明らかにしたから、クレジットとして入れた」と言い訳するかもしれない。だが仮に原稿にクレジットを入れたとしても、タイトルスーパーにまで首相の名を入れる必要があるだろうか? そこに大いに違和感があるから、NHK内外の多くの報道関係者がずっこけた。

バランス感覚を失い、「犬HK」と揶揄される

テレビ番組 翌2020年1月6日放送の「日曜討論」では、さらにずっこける事態が起きた。沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設を巡り、移設先の名護市辺野古で進められている埋め立て工事。安倍首相は「土砂投入に当たって、あそこのサンゴは移植している」と述べた。  だが実際には、すべて移植されたわけではないと抗議の声が相次いだ。この発言は生放送ではなく収録だったため、不正確な発言をそのまま流したNHKの対応を疑問視する声も上がった。  私の知る良心的なNHK政治部のデスクや記者たちは、バランスを重んじる。政治と「折り合う」ためにも、特定の政治勢力に偏らないバランス感覚が大切だ。そうした健全なバランス感覚が薄れてきているのではないか? だとすると、これは公共放送の危機だ。  受信料で成り立つNHKは、受信料を払ってくださる視聴者がお客様だ。お客様がNHKに不信感を持ち受信料を払わなくなったら、公共放送NHKは崩壊する。「不払いには裁判を起こす」というのは、不払いが少数の場合の話。大多数が「払わない」と言い出したら、とても裁判などできない。 「政権に忖度するNHKなんて、なくてもいい」と思う有権者が増えたことが、「NHKをぶっ壊す!」と訴えるN国党を躍進させた原動力になったのではないか?  そして「犬HK」という、NHKを揶揄する言葉もネット上でよく見かけるようになった。元々は「NHKが反日勢力に支配され偏向している」と考える人たちが使い出した言葉のようだが、最近では「政権側に支配され偏向している」という正反対の意味、文字通り「政権の犬」としての意味合いでも使われるようになっている。
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報道以外の職場から上がる怨嗟の声
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