台本を読むだけの“茶番劇”。「緊急事態」でも菅首相の言葉が響かない理由

結局、首相に都合の悪い質問は誰一人としてしなかった

台本を読み終え、会見場から退出する菅首相

台本を読み終え、会見場から退出する菅首相

 山田氏は毎回、会見を閉じるときに「みなさんの協力に感謝」を表明するが、記者会の協力=隷従姿勢がなければとても持たない「会見」だ。首相会見は「次の予定」を理由に、30~60分以内に強制終了される。山田氏は1月7日の会見も「次の予定」を理由に閉会した。  1月8日の各紙に載った「首相動静」を見ると、会見後の午後6時55分に面談したのは、和泉洋人首相補佐官ら官邸のスタッフだった。これまでは、不要不急の外国首脳との電話会談を設定するなどしていたが、これでは会見を強制的に打ち切る理由にはまったくならない。  山田氏は質疑応答で幹事2社の後、記者会の記者に質問させ、途中から「記者会」と「記者会以外」を交互に指名した。ここで言う「記者会」とは、内閣記者会の常勤幹事社(19社)のことだ。内閣記者会のメンバーでも、常勤幹事社以外の非常勤の報道機関は「記者会以外」扱いになっている。  常勤社以外で指名されたロイター、ドワンゴ、ラジオ日本の各記者も事前に質問内容を官邸側に提出していたと思われる。山田氏は、質問事項を出した記者を指名しているのだろう。1月4日の年頭会見も同様だが、7日の会見も国際標準の記者会見ではなく、一方的な朗読会、茶番劇だった。  学術会議任命拒否、安倍前首相の「桜を見る会」疑惑、河井案里議員の大規模買収事件、吉川元農水省の不正献金事件など、首相にとって都合の悪い質問はゼロ。首相は昨年12月16日まで高級飲食店で政財界、メディア関係者、芸能スポーツ有名人と会食を重ねていた。「Go To」事業の強行が社会全体の緩みを増長したことも間違いないが、こうしたことについてはどの記者も追及しない。  記者会の記者たちはパソコンに向かって文字を打つだけで、首相を追及する気概がまったく感じられない。官邸側から「更問」(さらとい=回答に対してさらに質問すること)禁止を言われていて、首相に質問を畳みかけることもできない。そのため菅首相の台本どおり進んでしまい、真剣勝負にはならないのだ。 <文・写真/浅野健一 菅首相会見写真/首相官邸のウェブサイトより>
あさのけんいち●ジャーナリスト、元同志社大学大学院教授
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