新型コロナウイルスの変異種「B.1.1.7」、これまでわかってきたこと

なぜ、ゲノム監視が重要なのか

 シークエンスにより、ウイルスの全ゲノム(設計図)が解読できます。新型コロナウイルスは一本鎖のRNAウイルスで、そのゲノムは約3万塩基(塩基は、A、C、G、Uという4文字で表され、それらの塩基が約3万文字つながっている)から作られています。ウイルスは、ゲノムの情報をもとに自己複製を繰り返しますが、その際ミスが起こり、塩基が別の文字に入れ替わったり、一部が欠けたりする(変異)ことがあります。これはRNAウイルスの性質で、ほとんどの変異は、感染力などウイルスの特徴に、大きな影響はありません。  ただし、特定のタンパク質を作る遺伝子に変異が起こると、ウイルスの構造や性質が変わり、感染力が変わったり、治療やワクチンが効かなくなるなどの可能性があります。  シークエンスによって、こうした変異を監視できます。そこで科学者らは、「ゲノム監視」と呼ばれるシークエンスを絶えず行い、変異種をリアルタイムに追跡し、ウイルスがどのように進化しているかを突き止めます。  ゲノム監視で、新しい変異種を見つけることができ、その変異種がどのくらい広がっているか、別の場所にも広がっているか、特定のクラスターでの相互関係(例えば、病院でクラスターが発生した時、医療スタッフと患者がお互いに感染したのか、それとも外部から感染が入ったのかなどの感染経路)を知るのに役立ちます。  12月20日の「サイエンス」に、英バーミンガム大学ニック・ロマン教授は、「私たちはゲノムを非常に密に監視しているので、ほとんどすべてのステップを見ることができます」というコメントを寄せました。  また、ゲノム監視は、政府が旅行制限を実施することを決める手段になります。たとえば、問題の変異種が、すでに米国で広がっていれば、旅行制限の価値はなくなります。NYTの社説は、「現在の状況は、武漢でウイルスが最初に検出されたパンデミックの初期の頃を彷彿とさせる。当時、米政府は、ウイルスがすでにヨーロッパ全域に広がりっていることに気付かずに、中国からの訪問者に対する旅行禁止を制定した」と指摘します。

「B.1.1.7」の気になる変異

 前述の「サイエンス」によると、新型コロナウイルスの塩基は、月に約1~2カ所のペースで変異を蓄積しています。つまり、今日シーケンスされたゲノムの多くは昨年1月に中国でシーケンスされた最初のゲノムとは約20カ所異なりますが、変異の少ないものも出回っています。  ところが、変異種「B.1.1.7」は、一度に17ものアミノ酸基の変異を獲得しました。科学者たちは、ウイルスが一度に十数以上の変異をするのは見たことがありません。  そこで科学者らは、「B.1.1.7」は感染しやすいかどうか、症状が重くなったり軽くなったりすることがあるか、もしそうなら、その原因は何か、さらに「B.1.1.7」はどのように進化したのか追跡し、ワクチンや治療の効果に影響するか調査しています。  「サイエンス」によると、懸念される理由の1つは、「B.1.1.7」の17の変異のうち、ウイルス表面にあるスパイクタンパク質を作り出す遺伝子に、8つの変異があり、そのうちの2つが特に気になることです。  新型コロナウイルスは、表面に突き出たスパイクタンパク質が、人間の細胞の表面にあるアンジオテンシン変換酵素2という受容体(ACE2)に結びついて、細胞に入り込みます。「B.1.1.7」の「N501Y」と呼ばれる変異は、スパイクタンパク質のACE2に結合しやすくなることが以前に示されています。もう1つの「69-70del」という変異は、一部の免疫不全患者で免疫反応を逃れることが見つかっています。  他にも気になる変異があります。例えば、P681Hという変異は、スパイクタンパク質がヒト細胞に入るときに切断する部位を変えます。つまり、これらの変異は感染力を高めるおそれがあります。
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感染力が強いが、病気の重症度への影響はない!?
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