「絶望している暇はない」……東大名誉教授・大沢真理氏が語る男女共同参画の未来
連載では、「男女共同参画会議の成立がなぜジェンダー平等につながらなかったのか」という問いについて考えた。
それを受けて、今回の記事では大沢真理氏に話を伺った。社会政策の比較ジェンダー分析を専門とする経済学者の大沢真理氏は、かつて男女共同参画会議の設立にも関わり、ジェンダーを中心とした社会政策の分野で積極的に提言を続けてきた。このインタビューでは、男女共同参画のこれまでを振り返った上で、現政権や未来のジェンダー政策について展望していく。
――ご自身も関わられた男女共同参画会議の設立の経緯について教えて下さい。
大沢真理氏(以下、大沢):内閣府男女共同参画会議の設立は、橋本行政改革の結果です。男女共同参画審議会が総理府にあったので、その後継の会議が内閣府に入るのは自然な流れでもありましたし、行政改革会議のなかで唯一の女性の議員であった猪口邦子氏の奮闘もありました。ただ、もともと男女共同参画会議の構想は、猪口氏ではなく橋本首相サイドから出てきたものです。
実は猪口氏も、一時期はむしろ「女性省」を設立することを考えていたようでした。しかし、私が1996~97年に研究会主査を務めた総理府男女共同参画室の「諸外国の国内本部機構の組織と機能に関する調査研究」で、諸国のナショナル・マシーナリー(※1)の位置づけや構成が整理され、参考にされたと思います。
この調査で、(1)「女性省」タイプ、(2)総理大臣/大統領直轄タイプが紹介され、そこでライン省庁のひとつである(1)よりは、他省庁に対する調整権限を持つ(2)が良いのではないかという流れができたのです。とはいえ、内閣府の四大会議のひとつに位置付けられるというのは、思ってもいないほど高い位置付けでした。
――一方、内閣府の四大会議に位置付けられることによって、男女共同参画に対する与党の介入が強まった面があるのではないでしょうか?
大沢:与党の介入は強まっています。与党がプロジェクトチームを作って公式にも非公式にも協議を実施しており、与党の承認がなければ先に進めないという状況になっています。
今回の選択的夫婦別姓の問題でも、パブリックコメントも背景して、男女共同参画会議の民間議員が推進を目指したにも関わらず、与党のプロジェクトチームによって押し戻されるということが起こっています。
総理府の審議会だったときには、そんなことはありませんでした。その背景には内閣府男女共同参画会議では総理大臣以外の閣僚全員がメンバーだということがあり、与党が閣僚を通じて意見を出している状況になっています。
(※1) 女性政策担当部局のこと
――また、男女共同参画会議の人事を見ていくと、徐々に経済界の議員が増加しており、市民団体や研究者など市民社会の議員が減少しています。また、その中でもとりわけフェミニストと思われる議員の数が減少しています。こういった状況について、どのように思われますか?
大沢:背景には、やはりジェンダー・バッシングの問題があります。厚生労働省の審議会のような三者構成(※2)の縛りが、内閣府や内閣官房に置かれる会議体にはないという事情もあります。
その上で、男女共同参画会議においては2000年代初年のジェンダーバッシングの中で、企業で先進的な取り組みをしている人や経済評論家のような人を増やしてきました。つまり、直球のフェミニストの発言というより、「この方が経済的にもメリットがあるよ」という発言ができる人を増やしてきたのです。
(※2) 使用者、労働者、公益の三側面を代表する同数の委員で会議を構成すること
「半年前では考えられなかったほど、いま人々が声を上げることができています」—-。
東京大学名誉教授の大沢真理氏は話す。
「決して絶望している暇はないのです」
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