――安倍前政権では「女性活躍」が掲げられながらも、それがジェンダー平等政策でなく経済政策として進められたという状況があったと思いますが、それについてはどうお考えでしょうか?
大沢:「
女性活躍」については、その管轄ではないとして、男女共同参画局/会議がその政策過程から外されかけるという事態がありました(※3)。もともと
安倍晋三氏は男女共同参画社会基本法を廃止したいと思っており、過去にそのような発言をしていました。
「
女性活躍」は、
ジェンダー平等というベクトルは除外した上で、もっと女性に働いてもらおうという政策でした。従って、「女性活躍」において、ジェンダー平等という視点はかなり弱いと思います。
とはいえ、結果的に安倍前首相の直接の掛け声によってポジティブアクションが一歩進んだという意味では、決してネガティブなことではないとは思います。
――かつてジェンダー・バッシングをしていた人たちがいまは「女性活躍」を表面上は謳っているように見えますが、どういうことでしょうか?
大沢:「女性活躍」といえば、ジェンダー・バッシングをしていた人たち(※4)も問題ないと思うわけです。「男女共同参画」といえば、危険思想だといわれていた時期もありましたが。「女性活躍」を掲げて総理が国際社会で褒められるなら良いことだろう、と区別をしている訳です。
(※3) 男女共同参画担当大臣と女性活躍担当大臣を別々の閣僚が務めていた時期もあった
(※4) 日本会議や神道政治連盟がその主な勢力
――より大きな視点で、ネオリベラリズムとフェミニズムの関係についてはいかがでしょうか?
大沢:表向きのネオリベラリズムは、性別や肌の色や年齢に関わらず役に立つ人間を使うということを意味します。しかし、現実にはどの国でもネオリベラリズムはそれだけでは推進できず、
新保守主義とセットになっていることが多いです。
新保守主義の政治家が、ネオリベラリズムの旗を掲げて「既得権」(※5)を壊したいが、自分たちの支持基盤である保守的な人達の生活も掘り崩すということになりかねないという時に、移民の問題や異なる宗教への不寛容、伝統的な家族の価値や男らしさ/女らしさなどといった概念を必要以上に強調することになります。なので、理論的にどうあれ、フェミニストにとってネオリベラリズムとは簡単に手を組める相手ではないのです。
ただし、
日本はジェンダー格差が酷すぎるので、小泉政権時のように限定的に協力して進められたシーンもあったと思います。
(※5) ネオリベラリズムがいう「既得権」には労働組合などが含まれる