――現在の菅政権は安倍前政権の政策を引き継いでいくと言っていますが、そんな菅政権においてジェンダー政策はどのように展開していくと予想されますか?
大沢:まだ菅政権発足から間もないし、そもそも菅総理は、記者会見はもちろん国会でもほとんど内容のある発言をしておらず、男女共同参画関連政策について自分の口からは語っていない状況です。
とはいえ、男女共同参画会議が推進していく方向性だった
選択的夫婦別姓について、自民党の反対派の声を入れて、次の基本計画でもポジティブな書きぶりでは入らないということは象徴的です。
菅総理自身もかつては推進派の議員のひとりだったものの、総理となった今は素知らぬ顔です。そんな訳で、あまり期待はできないと思います。
――その「あまり期待できない」状況が打破されるためには、どのような条件が必要でしょうか?
大沢:いま、
必ずしも労働組合などに組織されていない人々が声を出すツールが、半年前には予想できなかったほど活用されていると思います。検察庁法改正案への反対などを訴えて、Change.org等で多くの署名を電子的に集めたり、あるいはSNSで「いいね」が増えていくということが起こっています。それまでは同じことをするのに国会周辺を10万人のデモで埋め尽くすということが必要だったのですが、いまは
ワンクリックで声を上げることができます。これは期待できることではないかと思います。
その上で、もっと与党が議席を減らさないといけないです。
結局は選挙ですよ。
政治家は票で引っぱたかないと反省しません。しばらく前よりは現在、野党の大きな塊ができていますし、菅政権の支持率も調査の度に落ちています。したがって、
次の選挙は重要です。
――与党が勝っている現状では、与党の保守的な政策が広く国民に受け入れられている状態にあるのでしょうか?
大沢:いいえ。たとえば
選択的夫婦別姓や
女性天皇・女系天皇など個別のイシューについていえば、国民の多数派が賛成しています。その中で、
自民党のコアな部分が頑として抵抗している訳です。ですから、
自民党の保守派に対する国民の支持が強い訳では決してありません。
それから、安倍前首相のもとで自民党は連勝しながらも、
得票率自体が非常に低いです。
有権者の2割くらいの票で国会の300議席以上を占めるという状況です。これは小選挙区制度の帰結でもあるのですが、何よりも
「政治というのは期待できないものだ」とい期待の引き下げを安倍前政権は一生懸命やってきたと思うんですね。
森友問題、加計学園問題、桜を見る会の問題などで、国民の政治に対する期待が下がれば下がるほど利益を受けてきたのです。
――一方、近年フェミニズムがかなり世間一般に受容されている状況が出てきています。
大沢:ネガティブなものを跳ね返す運動からポジティブな運動まで大きく広がっています。なので、わたしは決して絶望していません。少しでも良い方に向けるために何かできることをやらなくてはいけないので、
絶望している暇はないんです。
――最後に、世の中の女性やジェンダーに関心を持っている人々に対して、何かメッセージを下さい。
大沢:いま権力やお金を握っている人たちがマジョリティな訳ではなく、
この社会のありかたに色々な意味で違和感を持っている人たちの方が実はマジョリティなのです。そういう自信をもって色んなことに当たっていきたいと思うし、それを若い方々にも期待したいと思っています。
たとえば、性的マイノリティはたしかに少数かもしれないけれども、
押し付けられている性別役割に違和感を持っている人は少なくとも若い世代では大多数です。
白か黒かで峻別するのではなく、
グラデーションで広がり繋がっていくということが重要なのです。
<取材・文/川瀬みちる>