なぜ「飲食店」か。何も示さずにただ狙い撃ちするだけ
ここまで大手メディアの記者の質問が続いてきたが、4人目にはフリーランスの記者が指名され、ここまでの質疑で疑問が生じた緊急事態宣言の範囲を確認する。その質疑は以下の通り。
フリーランス 江川紹子記者:
「あの、質問は、今のちょっと確認なんですけれども、あのー、つまり飲食に、あの、集中するということは、あの、前回4月、昨年4月の緊急事態宣言とは・・、のように教育、文化、スポーツいろんな経済活動全てを止めてしまったような、あー、緊急事態宣言とは違うものをイメージされてるということでいいのかという確認を一つしたいと思います。その上で質問ですが、あー、ちょっと外交関係になるんですけれども中国の問題です。えー、リンゴ日報の創業者の方がまた拘留されたり、あるいは周庭さんが、えー、重大犯罪を収容する刑務所に移送されたというような、あー、報道がありました。えー、天安門事件の時の、おー、日本政府の融和的な方針が明らかになって議論も招いてるところであります。菅首相はですね、えー、この一連の、おー、まあ、問題についてどのように考えるのか、お聞かせください。」
菅総理:
「
まず、全体としてのこの緊急事態宣言ですけど、おー、この約1年の中で学んできた、どこが問題かっていうこと、これはかなり明確になっていますので、そうしたことを踏まえて、諮問委員会の先生方に諮った上で、これ決定をさせて頂きたいと、えー、このようになります。(
赤信号)
まあ、そういう考え方からすれば、やはり限定的に行うことが、まあ、効果的。限定的に集中的に行うことが効果的だという風に思ってます。(
青信号)
それで、あのー、中国問題については、これは多くの日本国民が、あのー、同じ思いだと思ってます。民主国家であってほしい。そうしたことについて日本政府としてもですね、折あるところに、そこはしっかり発信をしていきたいと、このように思ってます。(
青信号)」
まず、質問は大きく分けて2つあった。
①今回は飲食店の時短要請に集中するということは、全ての経済活動を止めた前回の緊急事態宣言とは異なるのか
②周庭氏など香港を巡る中国の問題をどう考えるか
これら2点の質問に対して菅総理は1段落目で論点をすり替えており、
赤信号とした。
【質問】緊急事態宣言の
範囲
↓ すり替え
【回答】緊急事態宣言検討の
進め方
2段落目は遠回しな言い方ではあるものの質問①に関係するので青信号とした。今回の緊急事態宣言は飲食店に限定した形で行うらしいことがこの質疑で確認できた。だが、
「限定的、集中的に行うのが効果的」と言いつつ、なぜ飲食店に限定・集中するのかの説明はやはり無いため、飲食店が狙い撃ちされていることへの違和感は依然として残る。
質問②は「中国の問題をどう考えるか」という曖昧な聞き方であったため、何かしらの考えを述べている3段落目は青信号としたが、その内容は
あまりに薄くて意味不明だった。
そもそも「総理の考え」を聞かれているのに、「多くの日本国民が同じ思い」という回答は的が外れ過ぎている。
この後、5人目の産経新聞記者、6人目のフリーランス記者が質問した後、この記者会見は終了となった。司会者(山田真貴子 内閣広報官)は「なるべく多くの方に質問頂けるように」という理由で1人1問に制限しながら、結局、
質問を許されたのは僅か6名(幹事社2名+指名4名)であり、
合計質疑時間はたった15分間だったのだ。さらに、菅総理が要領を得ない回答を繰り返しても、
自席からの再質問を禁じるという方針を司会者は貫き、1人目の記者の質疑で紹介したようにもし再質問されれば
即座に注意して妨害する姿勢を見せ続けた。
政府方針が二転三転している中、質問に対して頓珍漢な回答を返すことが多い菅総理に対して、1人1問で再質問は許されないという条件では、国民が知るべき情報を引き出すことは困難だ。
この異常な状況が続いていることの方が日本にとっての緊急事態ではないか。
<文・図版作成/犬飼淳>