2050年までに国全体の脱炭素化を目指すコスタリカ
脱炭素化国家計画を実行した場合としなかった場合の炭素排出量の変化予測(「コスタリカにおける経済の脱炭素化のコストとベネフィット」(米州開発銀行)要約p.12より抜粋・筆者翻訳)
コスタリカ政府が昨年発表した
「脱炭素化国家計画」(Plan Nacional de Descarbonización=PND)に対して、米州開発銀行(BID)がそのコスト−ベネフィットを詳しく検証した。その結果、
利益がコストを大幅に上回るという結論に到達したという。
コスタリカは、
2050年までに国全体でのカーボンニュートラルを達成するという野心的な国家目標を掲げている。その具体的なロードマップがPNDだ。
PNDは、以前の筆者記事(
「コスタリカが『2050年までに国まるごと脱炭素化』のロードマップを発表」)でも紹介したように、10項目の軸からなる。
その中心的な目標は、
①電力のクリーン化②公共交通の改善③CO2吸収源の強化④省エネ⑤廃棄物処理・リサイクルの5つだ。PNDは、そのために必要な広範な政治的・制度的改革の道筋と達成目標および達成年度を示したものである。
PNDが発表された直後から、BIDはコスタリカ大学などと共同して
「コスタリカにおける経済の脱炭素化のコストとベネフィット」と題された研究を進めてきた。
まず、同研究では、PNDのプラン通りにいけば本当にカーボン・ニュートラルを達成できるのかについて検証している。その結果、
すべてプラン通りに物事が進んだ場合、国内で排出されるCO2と吸収されるCO2は差し引きゼロになるという結論を得た。
2018年段階でのコスタリカにおける排出量は、約12MtCO2e(CO2換算100万トン)だ。もし脱炭素化計画を実行せず、これまでの発展様式を何ら変えないまま30年間経過した場合、排出量は約19MtCO2eに増加すると試算している。
一方、PNDが計画通りに進んだ場合、現時点で全体の過半を占める輸送セクターの排出量は大幅に減少し、その割合も全体のごく一部にまで低下する。また、対策を打たなければ排出量が右肩上がりになると推測される農牧林業セクターは、
2025年頃に「排出源」から「吸収源」への転換点を迎える。その吸収量が運輸・産業・家庭など他セクターすべての排出量に追いつく到達点が2050年になるという検証結果を得た。
次いで、そのケースにおけるコストとベネフィットが計算された。その結果、目標年度である2050年までの今後30年間で同プランには370億ドルのコストがかかり、一方で780億ドルにのぼるベネフィットが得られるとはじき出された。
ベネフィットはコストの倍以上、差し引きで410億ドルの利益になるという計算だ。
脱炭素化国家計画が実現した場合のセクター別コストーベネフィット検証結果(「コスタリカにおける経済の脱炭素化のコストとベネフィット」(米州開発銀行)要約p.13より抜粋・筆者翻訳)
このうち、農牧林業が生み出すネット利益は約219億ドル、輸送セクターは約190億ドルと見積もられている。一方、産業と廃棄物セクターのネット利益は13億ドル程度という結果となり、プラスではあるものの利幅はかなり小さい。それでも、全体としての利益にこそ、この脱炭素化計画は
「新しい経済モデル」としての意義の大きさを見出せるというわけだ。