新型コロナで浮き彫りになった、気候危機対策の必然性
特筆すべきは、この間に起きたCOVID-19(新型コロナウイルス)の世界的拡大の影響だ。未知の感染症は、この長期国家計画の評価作業にも大きな影響を与えたが、それは決してネガティブな方向にではなく、
むしろ経済の脱炭素化の必然性を高める方向にであった。
同研究レポートは、人類と地球の歴史を巨視的に捉えている。
気候危機と未知の感染症の拡大とは無関係ではなく、むしろグローバルな歴史の中でひとつの文脈を形成しているということだ。
このレポートでは、まえがきの中で、今までの経済社会発展モデルは地球環境的に限界に達しており、
「発展のパラダイムを“永続的成長”(筆者注:無限に経済成長が続くと考えること)から包括的でレジリエントな、かつ温室効果ガスの排出が少なくエコシステムを守る“持続可能な経済・社会”へとシフトすること」(筆者訳)が人類全体に求められていると前提づけている。
その問題意識は、気候危機のみならず感染症拡大からも導かれる。コロナウイルスが人類に「古い日常」を断念させ、ニュー・ノーマルと呼ばれる「新たな日常」の様式を模索せねばならなくなったのと同じことだというのだ。
生活様式や産業構造の変更を逆手にとって、人類は次のステップに進めるか
2020年末、ドイツから電気バス3台がコスタリカに贈られた。ドイツ大使とコスタリカ大統領夫妻が贈呈式典に参加し、その様子は大統領府及び大統領個人のアカウントからSNSでライブ発信された(写真は大統領個人アカウントからのキャプチャ画像)
様式の変更はコストを伴う。実際、人類はコロナウイルスによる生活様式の変更と産業の構造的危機への対応を迫られる中で、多大なコストを支払っている。そのような中で、PNDに示された「国まるごと脱炭素化ロードマップ」を詳細に検討し、脱炭素化の進捗度とマクロ経済的コスト−ベネフィットを示すことは、
「コロナ下・コロナ後をどう生きるか」というテーマとオーバーラップし、むしろ重要性を増す。
生活様式や産業構造の変更は我々に経済的ダメージを与えるのか。それともそれを逆手にとって、人類は次のステップへと移行できるのか。できたとして、その経済効果はいかなるものなのか。漠然とした不安を数字に落とし込み、ひとつの方向性を示したという意味で、同レポートの研究意義は大きい。
コスタリカがPNDに基づいて取り組み始めた包括的な「自主的社会変容」は、パンデミックによる「強制的社会変容」の方向性と似通っている。その意味で、
この国が世界に先んじて「持続可能国家」への変容を図り始めていたことは、この時代にあってはむしろ「いいニュース」だったと同レポートは指摘する。