「パンデミック下での脱炭素化は経済を浮揚させる」米州開発銀行が驚愕のレポート

なぜコスタリカは脱炭素化に成功すると考えられるのか

 同レポートは結論のひとつとして、世界に先駆けた脱炭素化計画はコスタリカを「犠牲」にするものではなく、むしろ全員の利益になるものだと喝破している。ただし、それはコスタリカがそもそも環境政策と経済政策を深くリンクさせてきた歴史があるからだ。  つまり、脱炭素化の準備ができていたわけだ。だからこそ、この「国をあげた社会実験」はより成功の可能性が高く見積もられ、先駆的実例として追跡調査研究の価値も増す。  動き出したばかりの計画の、達成されてもいない目標に対して行う評価は、多くの不確定要素を含む。だがむしろ、その状態でまず一定の評価を算定することは、現時点での不確定要素を洗い出す作業にもなる。今後、計画の実行段階が進むにつれて、それらの不確定要素を一つずつ塗りつぶしていくことで、計画の成功確率を上げることにつながる。  PNDの具体的評価に踏み込むと、大目標のひとつである電力のクリーン化はすでにほぼ達成している。これにより、家庭、産業、オフィス部門の脱炭素化という次のステップにすぐ移行できる準備が整っていることは、大きなプラス評価材料だ。
街道沿いのレストランで発見したEV用の充電ステーション

街道沿いのレストランで発見したEV用の充電ステーション。充電インフラは急速に拡大しつつあり、観光客がEVをレンタルして観光地で充電する姿も見られるようになった(筆者撮影)

 最大の難関は輸送部門だ。ただでさえ国中のエネルギーの過半はここで消費され、かつ現状ではそのほぼすべてが石油由来の燃料によって動いている。しかし、これも電力エネルギー源を持続性のものに切り替えたことにより、EV化もしくは水素燃料車への切り替えができれば、脱炭素化経済の目処はほぼ立つことになる。
CO2の吸収源として期待される森林は、近年急速に回復しつつある

CO2の吸収源として期待される森林は、近年急速に回復しつつある。オリジナルの植生にあわせて再植林した地域では、新しいエコツアーの目的地として経済的にも大きく寄与する。(筆者撮影)

 農牧林業セクターも、現在は温室効果ガスの「排出源」になっている。だが、コスタリカは近年森林率を急速に回復させており、前述のように、BIDの試算ではあと5年で「吸収源」に転換すると見積もっている。もともとコスタリカは森林国なので、その吸収量が十分に回復できれば、30年後には他セクターで低減された排出量をすべて賄える計算になるというわけだ。  加えて、BIDがこのような評価をした意味も極めて大きい。それ自身、コスタリカの脱炭素化計画の成功確率を上げる要素になっていることにも注目に値する。  このレポートは、国際金融機関がPNDに対し「これは儲かります」というお墨付きを与えたことと同義である。つまり、全世界の金融市場に対する「コスタリカの脱炭素化計画は投資先として有望だ」というメッセージとなっているのだ。それに乗って世界の投資がコスタリカに集まれば、その分PNDの成功率も上がる。正の連鎖がここから始まるというわけだ。

私有車両の脱炭素化、農牧林業の吸収量増加が重要なポイント

車両台数の急激な増加は慢性的な渋滞を生み出し、首都サンホセから周辺地域まで拡大している

車両台数の急激な増加は慢性的な渋滞を生み出し、首都サンホセから周辺地域まで拡大している。私有車両の脱炭素化より先に、公共交通網の整備によってマイカー使用からの転換も進めているが、まだまだ追いついていない

 ただし、すべてうまくいく保証があるわけでもない。なかでもとりわけ重要なポイントとなるのはおそらく輸送セクター、なかでも私有車両の脱炭素化と、農牧林業セクターの吸収量増加がどの程度まで進むかの2点だ。  車両台数も交通量も右肩上がりのコスタリカにとって、車両の脱炭素化にはかなりのコストと時間を要すると考えられる。ましてや、PNDに記された運輸セクターの脱炭素化スケジュールは、欧州先進各国におけるそれと大きく変わらない。資金や技術で上回る国々ですら達成可能性を問われる状態で、コスタリカでは確実に実現可能だと断言する根拠はまだ弱い。  また、農牧林業セクターの吸収量増加にしても、今後すんなりとは計算通りにいくのか、疑問が残る。まだまだ吸収源を増やす余地があることには疑いがないものの、果たして期待通りの数値まで吸収源を広げられるのか、その現実性はどれくらいあるのか。今後さらなる検証が必要だと考えられる。  同レポートは、あくまで計画通りにいけばどうなるかという評価なので、これらの点を甘く算定しているのではないかとも受け止められる。その点は注意が必要だろう。それを踏まえつつ、このレポートはPNDを後押しする役割が強いことを意識しつつ読んだ方がいいのかもしれない。
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この危機的状況を、いかに前向きに乗り切るか
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