マック、ケンタのポテト不足を引き起こしたのは、でん粉用ジャガイモばかりを作らせるいびつな補助金行政

 マクドナルドが昨年の12月中頃からフライドポテトの販売をSサイズのみに限定していたことは周知の通り。消費期限切れのチキンナゲットや異物混入など、立て続けに生じたトラブルの陰に隠れてさして注目されなかったが、ネットなどでは、それなりに話題となっていた。  そのマクドナルドでは、1月5日から全サイズの販売が再開されたのだが、今度はケンタッキーフライドチキンがフライドポテトの販売を一時休止すると、22日に発表。販売休止の理由は、マック、ケンタともにアメリカにおける港湾労働者と港湾側との労使交渉が長期化しているためと報道されている。

写真はイメージです。

 それ自体は確かに事実なのだが、一方で背景に農政の構造的問題が横たわっていることは、ほとんど知られていない。昨年から続くバター不足を引き起こした構造について、3回にわたって記事で指摘した(https://hbol.jp/15641)農業ジャーナリストの浅川芳裕氏は次のように語る。 「そもそも何故、代替する国産フライドポテトがないのか。実は、マクドナルドは1971年の日本上陸時、フライドポテト用に北海道産ジャガイモのオファーを出している。ところが、北海道の農業界に断られてしまった。その理由は、当時の日本人にあまり馴染みのなかったフライドポテト用のジャガイモなんかを作るより、補助金がもらえる“でん粉用ジャガイモ”を生産したほうが儲かると思ったからです。実際、でん粉用ジャガイモは、9割が補助金で補填される“補助金漬け作物”になっています」  でん粉用ジャガイモに対しては、1トンあたり1万2840円の補助金(加えて、でん粉含有率が19.5%以上だと0.1%につき64円の「品質加算」がある)が生産者に支払われている(26年度)。こうした実状もあり、意外に聞こえるかもしれないが、国産ジャガイモで最も多く生産されているのは、青果として店先に並ぶジャガイモでも、コロッケやポテトチップなどの加工食品用でもなく、我々が直接目にすることがない、でん粉原料用のジャガイモなのだ。  もちろん、でん粉自体は国民生活には欠かせない重要なもので、片栗粉やビール、水産練り物など食品のほか、糊などの工業用にも広く使用されている。ただし、需要量の9割を賄っているのは輸入コーンスターチだ。 「コーンスターチを輸入する際には、バター不足の記事でも登場した『農畜産物振興機構』に申告しなければならず、その際には“調整金”が徴収されます。この調整金は約100億円にのぼり、でん粉製造業者に対する補助金の原資となっている。バターの場合と同じく自由に差配できるお金として、農水省の利権となっています」(浅川氏)  しかし、すでに9割方を輸入に依存しているでん粉に関して、残りの1割を占めるに過ぎないでん粉用ジャガイモを頑なに保護する理由はどこにあるのだろうか。これには歴史的な経緯も関係しているという。 「明治時代、北海道は食糧供給地として急速に開拓されました。畑作の場合、同じ作物を連作すると土壌菌によって土が痩せてしまうので「4年輪作」が基本になっていますが、北海道では“政府管掌作物”としてその4種を小麦、大豆、甜菜(ビート)、でん粉用ジャガイモと定めた。そのため、今でも北海道には多くのでん粉製造業者や生産者が存在するのです」(浅川氏)  よく言えば歴史の継承ということになるのかもしれないが、とはいえ世の中は常に移り変わっている。法律が時代遅れとなるのと同様に、いつまでも100年以上前にできたシステムに縛られていては将来は見えてこない。 「もちろん、でん粉に関わる人たちの生活がありますから、直ちに補助金をストップしろとは言えません。しかし、例えばポテトチップやポテトサラダメーカーは、渋るでん粉用ジャガイモ生産者を説得して、北海道で加工用ジャガイモを作ってもらうようになりました。その結果、加工用ジャガイモの国産シェアは大きく伸び、同時に生産者も潤うことになったのです。フライドポテトはいまや生鮮換算で100万トン近い需要があり、これはでん粉用ジャガイモの生産量とほぼ同じです。一方、フライドポテト輸入額はジャガイモでん粉市場200億円の倍以上の500億円。ファストフードやスーパーの冷凍ポテトなど、小売市場は数千億円にも上る。今後、徐々に補助金を減らせば、この市場獲得を目指して、自然とでん粉用からフライドポテト用に生産が移るのは目に見えています」(浅川氏)  いずれにしても、国産ジャガイモの4割近くをでん粉用に回した上に莫大な補助金を費やして、でん粉供給のわずか1割を維持というのはあまりに非効率だろう。例えばでん粉は輸入にまかせ、需要のある分野で高品質、高付加価値のジャガイモ生産を目指すといったような農業の構造改革が、アベノミクスでいうところの成長戦略においても、大きなカギとなるかもしれない。<取材・文/杉山大樹> 浅川 芳裕(あさかわ・よしひろ) 農業ジャーナリスト 1974年山口県生まれ。カイロ大中退。著書『日本は世界5位の農業大国』『TPPで日本は世界一の農業大国になる』など多数。
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