バター不足の怪。牛乳やチーズは山ほど売ってるのに、なぜ?

 このところ「スーパーの棚からバターが消えた」とよく聞く。先月28日には、農水省がクリスマスケーキ生産などの最需要期を前に、大手乳業メーカーに供給を増やすよう要請したと報道されたが、これを受けて今月4日、各社が前月比3割の増産することを同省に報告した。今年は年間を通じてバターが不足しているようで、農水省は今年5月に約7000トンを、その後も追加で約3000トンを緊急輸入するなどしている。

 農水省はバター不足の理由として「昨年の猛暑の影響で乳牛に乳房炎等が多く発生したことや、酪農家の離農等で乳牛頭数が減少していることなどにより、生乳(=搾ったままの牛の乳)の生産量が減少したため、バターの生産が減少し在庫量が大きく減少」したからだと言い、テレビや新聞でも、円安による飼料の高騰や電気料金の値上げなど、酪農を取り巻く厳しい経営環境を盛んに報道している。が、ちょっと待て。確かに生乳の生産量や生産者数が減少傾向にあるのは事実なのだが、去年と今年を比べて生産量が劇的に減少したわけではない。事実、前年比わずか2%減の98%を維持している。

 その証拠にバター不足で大騒ぎしている割には、牛乳やチーズはスーパーで毎日のように特売しているではないか。つまりは安売りできるほど品物があるということだろう。原料は同じはずのバターだけが品薄になるというのは、よく考えれば不思議な話だ。

バターの”生産統制”による弊害

 農業ジャーナリストの浅川芳裕氏によれば、実のところこのバター不足は、農水省の方針によって生じた、極めて人為的な問題であるのだという。

「一言で言えば、バター生産の“北海道一極集中化”という“生産統制”の弊害です。そして、一極集中化を支えているのが “加工乳補助金”という仕組みなのです」

 正式には「加工原料乳生産者補給金等暫定措置法」と呼ばれるもので、加工用に生乳生産量の半分以上を出荷している都道府県の酪農家に支給される補助金がある。バターや脱脂粉乳等などに利用した場合、180万トンを限度に1リットルあたり12.8円支給されるが、現状でこの条件に当てはまるのは北海道だけなので、北海道限定の補助金と言っていい。北海道が占める全国の牛乳シェアは2割にすぎない一方、加工用は8割であることからもその効果がうかがえる。

「この仕組みの名目は、生産性の高い北海道から都府県に流れる牛乳の量を規制することで都府県の酪農家を保護することになっていますが、実際には、北海道に加工工場がある乳業メーカーに便宜を図って優遇することで、バター生産を北海道に寡占化させる結果となっている。今回のようなケースで、消費・実需サイドが多様な調達源を失うリスクを高めているのです」(浅川氏)

 農水省のHPで生乳の“用途別取引量”を見てみると、例えば今年10月では脱脂粉乳・バター等向け生乳は全国で約96600トン、うち北海道が約87200トンと全体の9割以上を占めている(一方、北海道産の牛乳シェアは同月、25%強にすぎない)。つまり、北海道以外の地域でバターを生産しても補助金が出ないため、特に付加価値をつけたものでもない限り、競争力の面からバター生産はかなりハードルが高いということだろう。そのため生産する業者も少なく、北海道でバター生産が減少するとたちまちバター不足が生じるわけだ。加工乳補助金の総額は毎年約300億円。これだけの血税を投じた結果が、「バターが消える」では納税者は救われない。

 浅川氏は、このような農水省によるバターの“統制”の構造はこれだけに留まらないと指摘する。このほかにもバター不足が必然的に発生する構造的要因は複数あり、続きでそれらを紹介していきたい。

<取材・文/杉山大樹>

浅川 芳裕(あさかわ・よしひろ) 農業ジャーナリスト 1974年山口県生まれ。カイロ大中退。著書『日本は世界5位の農業大国』『TPPで日本は世界一の農業大国になる』など多数。


日本は世界5位の農業大国

食糧危機と農業弱者論は農水省によるでっち上げ!

この特集の記事一覧

この記者の記事一覧

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して株式会社扶桑社は一切の責任を負いません

ドル円は買い戻しが優勢で107円前半まで上昇

昨日のドル円は、東京市場では米国の3連休明けの5・10日(ゴトー日)とあって仲値にかけて買いが先行しました。仲値後は日経平均株価の下落などが重しとなったことで伸び悩む場面もありましたが、一方で下値では本邦勢からの買いが観測されるなか、次第に下値を切り上げる底堅い動きになりました。全般にドル… [続きを読む]
連載枠
連載一覧
菅野完

菅野完

草の根保守の蠢動

稲田防衛大臣と国有地払い下げ事件の塚本幼稚園を結ぶ「生長の家原理主義ネットワーク」【特別編】

東條才子

東條才子

現役愛人が説く経済学

年収はそう高くないけど愛人成約率抜群な「市場」とは?

北条かや

北条かや

炎上したくないのは、やまやまですが

若者の「節分離れ」は、恵方巻きのブラックノルマが原因である

マッチョ社長

マッチョ社長

筋トレで解決しない悩みはない!

間違ったダイエットで、仕事に悪影響を与えないためには?

武神健之

武神健之

ブラック化する日本企業への処方箋

外資系産業医が明かす、今年も「過労死のニュース」がなくならない原因

山口博

山口博

分解スキル・反復演習が人生を変える

いつまで経ってもスケジュールが決まらない!? 無駄なメールの応報を減らす鍵とは?

清水建二

清水建二

微表情学

ヤンキーが暴力を振るうのは、他者の表情を読み取れていないからである

都市商業研究所

都市商業研究所

JR九州「全路線で減便」の衝撃――深刻な赤字の鉄道事業、対応迫られる沿線自治体

Yu Suzuki

Yu Suzuki

快適ビジネスヘルスハック

結婚にメリットがないことが遂に科学的に証明される 研究者「既婚者のほうが孤独でストレス値が高い」

石原壮一郎

石原壮一郎

名言に訊け

つまらない悩みにクヨクヨする自分を奮い立たせる三島由紀夫の至言

大熊将八

大熊将八

ビジネスニュースの深層

『秘密結社 鷹の爪』DLE、急成長のウラに隠された決算上の疑念とは?

島影真奈美

島影真奈美

仕事に効く時代小説

おんな城主・井伊直虎を育てた師の重~い箴言

江藤貴紀

江藤貴紀

ニュースの事情

中高一貫私立でレベル無視して「検定外」教科書がもてはやされる背景

闇株新聞

闇株新聞

東芝を海外勢に叩き売ってはいけないたった一つの理由