役場職員や銀行員になりすまして通帳・カードをだまし取る
逮捕後もオープンハウスのウェブサイトに掲載されたままだった、北野氏の写真と経歴。ラグビー選手だった
犯行は、被害者に電話をかけてだましたり、仲間に指示を出したりする「指示役兼かけ子」と、通帳などをじっさいに奪って現金を引き出す「出し子」に分かれて行われた。指示役とかけ子は主に松本・小山両氏が担い、出し子役をオープンハウスの北野・林両氏がやった。
公判で判明したところでは、手口はおよそ次のとおりである。
足立区内のホームセンター駐車場に停めた黒色プリウス車内やその周辺で、指示役の松本・小山氏は、長時間にわたって標的の高齢者に電話をかける。役場職員や銀行職員になりすまし、
「保険金(または年金)の還付を受けるために通帳を新しくする必要があります。銀行員が通帳とカードを受け取りに伺います」などといったウソの話をしてだました。キャッシュカードの暗証番号も聞き出した。
うまくだますことができると、「出し子」の北野・林氏らに携帯電話で指示を出す。指示を受けた北野氏らはそれぞれ単独で被害者宅を訪ね、銀行員らを装って通帳・カードをだまし取った。そして、それらを使って被害者宅付近の千葉銀行や千葉興業銀行、ゆうちょ銀行のATMから金を引き出して盗んだ。
検察官冒頭陳述によれば、オープンハウス社員2人のうち、先に犯行をはじめたのは林氏だった。北野氏は林氏の勧誘で2020年3月中旬ごろに加わった。
林氏の指南で「シグナル」という携帯電話のアプリケーション(履歴が自動的に消去されるチャット機能)をインストールしたり、駅のコインロッカーで犯行用の青色携帯電話を受け取るなどして準備を整え、偽名の指示役グループの指示に従ったという。北野氏に指示を出した指示役はいくつか代わっているとのことで、松本・小山氏のほかにもいた可能性がある。
大企業の正社員として安定した収入を得ていたはずなのに、なぜ人生を棒に振るような犯罪に手を染めたのか。不可解というほかない。動機については、北野氏はガールズバー通いで浪費して金がほしかったという話も出ているが、詳しくはまだ不明だ。今後の公判で明らかにされるのを待つしかない。
無言を貫くオープンハウス、犯罪防止キャンペーンに協力していたのに……
神奈川県警との協力でオープンハウスが行った「特殊詐欺防止キャンペーン」の様子(オープンハウスのウェブサイトより)
さて、北野・林両名の雇用主であるオープンハウスについてみると、無責任というほかない態度をとっている。東証一部上場企業としての社会的な立場を考えれば、社会に向けて説明する責任があるはずだ。だが、筆者の取材に対して徹底して「沈黙」を貫いている。社員2人が逮捕されたという最低限の事実についてすら何も答えない。
さらにあきれたことには、
オープンハウスは神奈川県警と協力して「特殊詐欺防止キャンペーン」をやっていたのだ。
県警に対する情報公開請求で得た資料によれば、2019年12月に神奈川県鶴見区の住宅建築現場で、「電話で『キャッシュカード』と言われたら、もれなく詐欺です」と大書きした黄色のステッカーの貼付式を行っている。
貼付式には県警から田上数仁・犯罪防止対策室長、オープンハウスからは中野宏一郎・鶴見営業センター長が出席したと記録されている。
警察といっしょに特殊詐欺防止を呼びかけた当の会社の社員が特殊詐欺の加害者だったというのは、前代未聞の珍事だろう。オープンハウスだけでなく、神奈川県警にとっても失態にちがいない。ところが、神奈川県警もまた知らんぷりを決め込んでいる。同県警とオープンハウスのサイトには「特殊詐欺撲滅キャンペーン」の記事が掲載されたままだ。
■株式会社オープンハウス
令和元年12月、株式会社オープンハウスは、「特殊詐欺被害防止ステッカー」を作製し、県内の新築現場等に貼付する活動を行うこととなりました。
ステッカーには、県警が進めている「電話でキャッシュカードと言われたらサギ!!」のキャッチコピーを入れており、現場近くの通行人等への注意喚起を実施しています。
(
神奈川県警察のウェブサイト「防犯CSR活動のご紹介」より)
■神奈川県警との取組み
当社グループでは、分譲する住宅の周辺環境がより住みやすくなるように神奈川県警察本部と地域の犯罪抑止活動に取り組んでおります。
2019年12月16日には、オープンハウス鶴見センター センター長が、神奈川県警察本部犯罪抑止対策室長、神奈川県警絆大使「振り込まセンジャー」と共に、当社施工現場への犯罪抑止第一号ステッカーの掲出を行いました。〉
(
オープンハウスのウェブサイト「オープンハウスグループの社会貢献活動」より)
「振り込まセンジャー」は、タレント・小島みゆ氏の協力を得て制作した防犯マンガのキャラクターだが、とことん馬鹿にされたものだ。なお、神奈川県警に電話で取材すると
「記者クラブ以外には回答しない」(広報県民課)という「回答」が返ってきた。