2020年はコロナ禍でも日本映画の傑作が続々と生まれた1年だった!

2位『許された子どもたち』

 中学1年生の少年が同級生へのいじめをエスカレートさせた結果、殺害してしまうことから始まる苛烈な物語だ。その後に不起訴になり「許されてしまった」少年の“生き地獄”ぶりは、最悪のさらなる最悪へと向かっていく。  物語はフィクションであるが、山形マット死事件や川崎中一男子生徒殺害事件など複数の事件を題材にしており、主演の上村侑を筆頭に役とほとんど変わらない年齢の子役たちをキャスティングしたこともあって、恐ろしいまでのリアリティも担保されていた。  これは「誰もが加害者になり得る恐怖」を描いた物語であるとも言える。その加害者とは、いじめにより同級生を殺してしまった少年本人だけに限らない。ネットで度を超えたバッシングを浴びせる者たち、少年の転校先で彼の正体を探ろうとする同級生、そして息子のいじめによる殺人の罪を認めようとしなかった母親も、加害者と言えるのではないか。  事実、内藤瑛亮監督は、本作のオーディションに来た子どもたちの親御さんに、こう告げたことがある。「いじめは一人に対して大人数が起こす事象なので、自分の子どもは『加害者』になる可能性の方が高いです」と。子どもに限らず、人は自分が被害者になることは想像しやすくても、加害者になるかもしれないという危機感を抱きにくいのかもしれない。『許された子どもたち』はズシンと心に響く形で、そのことを教えてくれている。親御さんはもちろん、劇中の登場人物と同じ年齢の中学生にも観てもらいたい。

1位『ウルフウォーカー』

 オオカミ退治のためイギリスからやってきたハンターを父に持つ少女が、森の中で“ウルフウォーカー”である少女と出会って交流していく様を描くアニメ映画だ。ジブリ作品に強い影響を受けており、例えば「怒っていたら線を粗くする」「冷静で落ち着いていれば線をシンプルする」など、キャラクターの感情によって線の描き方も変えているのは、故・高畑勲監督の『かぐや姫の物語』から刺激されたそうだ。  何より、オオカミというモチーフや、奥行きのあるアクション、自然と人間との対立の構図は、『もののけ姫』を強く連想させる。その神秘的かつ躍動感のあるアニメーションのクオリティに、誰もが圧倒されるだろう。  物語上では、前述の『ミッドサマー』とは全く違う形で、女性の解放というフェミニズムのメッセージが打ち出されている。それが“子ども視点”で切実に伝わるようになっているため、小さなお子さんであっても、エンターテインメントとして楽しむことはもちろん、男性権威主義的な社会構造の問題も考えるきっかけになるだろう。その女性の解放が、男性にとってもより良い生活や人生の足がかりになる、ということが訴えられていることも素晴らしい。2020年は女性同士の連帯感や結束を描いた“シスターフッド”映画も多数公開されていたが、その最高峰が『ウルフウォーカー』だ。現在はApple TV+で配信されている。 【シスターフッド映画についてはこちら】⇒2020年の女性たちに勇気を与えたシスターフッド映画11選  なお、2020年は『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の歴史的超大ヒットは言うに及ばず、京都アニメーション製作の『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や中国製アニメ『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』に絶賛が相次ぎロングランヒットするなど、アニメ映画が注目された年でもあった。現在、劇場で公開中の『ジョゼと虎と魚たち』も、前述の『37セカンズ』と同様に障害者の女性が“新たな世界”を知っていく過程を描いた素晴らしいアニメ映画だった。普段は実写映画しか観ていないという方も、こちらにも注目してはいかがだろうか。

「映画は映画館で観たい」と思いを新たにできた1年

 緊急事態宣言により約2ヶ月に渡って映画館が閉鎖された2020年は、より一層「映画は映画館で観たい」という思いを新たにできた年でもあった。例えば、『許された子どもたち』は一時は配信が検討されたが、「まず最初にスクリーンで体感して頂くのが最適な作品」というプロデューサーの意向もあって緊急事態宣言後すぐに公開されており、実際の本編も“音”の演出がこだわり抜かれていることもあって、「劇場という空間で堪能するべき」作品であると実感できたのだ。  なぜ、映画館で観たほうが、映画の感動が増すのか。音響の良さやスクリーンサイズの違いもあるだろうが、やはり「多数の観客と同じ空間を共有する」「約2時間にわたって集中できる」環境ということも大きいだろう。  もちろん家で観る映画もそれはそれで魅力的であるし、上記の2020年ベスト映画10は映画館以外でも観てほしいのだが、どれだけ新型コロナウイルスの脅威が続き、どれだけ配信サービスが台頭しようとも、映画館での掛け替えないのない映画体験は、絶対に無くしてはならない、と思うばかりだ。  幸いにして、日本の映画館では厳格な空調設備のレギュレーションがあり、『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が超大ヒットしたとしても未だクラスター発生の報告がないこともあって、「映画館は安全な場所である」という共通認識も広まってきた。十分に感染対策をする前提があることはもちろんだが、むしろコロナ禍でも楽しめる娯楽施設として、映画館はうってつけなのではないだろうか。ぜひ、2021年も、映画を映画館で楽しんでいただきたい。 <文/ヒナタカ>
雑食系映画ライター。「ねとらぼ」や「cinemas PLUS」などで執筆中。「天気の子」や「ビッグ・フィッシュ」で検索すると1ページ目に出てくる記事がおすすめ。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF
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