安倍前首相は国会で答弁を「訂正」するはずではなかったのか?

安倍

事実と異なる部分があるので答弁を「訂正」したいとみずから国会に求めて立ったにも関わらず、なにがどう間違っていて事実はどうだったのかを説明せずに答弁を終え、「説明責任を果たした」と嘯いた安倍前首相(衆議院インターネット審議中継より)

「政治と報道」をめぐる短期集中連載は全11回をもって終了したのだが、どうしても書いておかなければならないことが出てきた。12月25日の衆参両院の議院運営委員会でおこなわれた安倍晋三前首相による答弁の「訂正」について、だ。  あの場は安倍氏がみずから求めて開かれた答弁の「訂正」のための場だった。しかし、答弁は適切に「訂正」されなかった。なのに、なぜ報道はそれを看過するのか。あの場の位置づけを軽視することは、「説明責任を果たした」という安倍氏の主張に加勢することになってしまうのに。

何の場だったか、各紙の1面報道は

 安倍氏の国会答弁がおこなわれた翌日の12月26日。各紙は1面で、その様子を伝えた。しかし、それが何のために設けられた場だったのかが説明されず、いきなり答弁の中身に入る形での報じ方だった。それぞれの1面記事の冒頭は、こうだ(それぞれ、東京本社版)。 ●読売新聞 “自民党の安倍晋三前首相は25日、衆参両院の議院運営委員会にそれぞれ出席し、安倍氏の後援会が主催した「桜を見る会」前夜祭を巡る過去の答弁について、「事実に反するものがあった」と認め、謝罪した。” ●朝日新聞 “安倍晋三首相の後援会が「桜を見る会」の前日に開いた夕食会の費用を補填していた問題で、安倍氏は25日、衆参両院の議院運営委員会に出席し、首相在任時の国会答弁が事実と異なることを認め、謝罪した。” ●毎日新聞 “自民党の安倍晋三前首相は25日、衆参両院の議院運営委員会に出席し、「桜を見る会」前夜祭の費用補填問題に関する首相在任中の国会答弁について、「結果として、事実に反するものがあった」と誤りを認め、謝罪した。” ●東京新聞 “安倍晋三首相は二十五日、「桜を見る会」前日の夕食会を巡る首相在任中の国会答弁について衆参両院の議院運営委員会で「事実に反するものがあった。国会の信頼を傷つけた」と陳謝し、夕食会参加者の費用を補填していたことを認めた。”  これらの報じ方では、なぜ安倍氏が議院運営委員会に「出席」したのか、わからない。通常の委員会開催ではないし、参考人招致や証人喚問でもない。安倍氏は、みずから申し出て、発言の機会を求めたのだ。「謝罪したい」と申し出たのか? 違う。「答弁を訂正する発言を行わせていただきたい」と、申し出ていたのだ。  宮本徹議員がその文書をツイッターで公開している。日付は12月24日。「衆議院議員 安倍晋三」から「衆議院議長 大島理森殿」にあてられており、「答弁訂正に関する発言の申出について」と表題にある。  本文はこうだ。 “私が、本会議及び委員会において、内閣総理大臣として行った答弁について、事実と異なる部分があることが判明いたしましたので、答弁を訂正する発言を行わせて頂きたいと存じます。お取り計らいのほど、よろしくお願い申し上げます。”  そう。この場は、安倍氏が「答弁を訂正する発言を行わせて頂きたい」と求めたことに応じて開かれた場だった。なのに、そのことが各紙の1面記事に明記されていない。冒頭部分だけでなく、1面記事の本文全体の中にも見当たらない。これはどうしたことなのか。

冒頭発言では答弁がどう「訂正」されたのか

 実際の議院運営委員会も、安倍氏が答弁を訂正する場として設けられていた。衆議院議院運営委員会の委員長の冒頭発言にはこうある。 「昨24日、議員安倍晋三くんから、大島議長宛に、本会議および委員会において内閣総理大臣として行った答弁について、訂正する発言を行わせていただきたい旨の申し出がありました。本件につきましては、理事会における協議に基づき、本委員会で行うこととなりました」  そのうえで安倍氏が発言するのだが、安倍氏は議院運営委員会に集まった議員に向けた前置きの挨拶もなく、いきなり紙を読み始めた。およそ2分半にわたるその内容を以下に記す。これが「答弁を訂正する発言」と言えるのか、皆さんにご判断いただきたい。なお、この「読み上げ」のあとは、自民党・立憲民主党・公明党・日本共産党・日本維新の会・国民民主党の各議員からの質疑が計1時間続く形となった(その後、後述の通り、同様の形式で参議院議院運営委員会でも実施)。 *** 安倍氏の冒頭発言 ***  昨日、私の政治団体である安倍晋三後援会の政治資金収支報告書2017年、2018年、2019年の3年分についての修正を行いました。これは今般の桜を見る会の前夜に行われていた夕食会に関する捜査の結果、新たに判明した事実、すなわち、同夕食会の開催費用の一部を後援会として支出していたにもかかわらず、それを記載しなかったとの事実が判明したことから、その修正を行ったものであります。  こうした会計処理については、私が知らない中で行われていたこととはいえ、道義的責任を痛感しております。深く深く反省いたすとともに、国民の皆様、そして全ての国会議員の皆様に、心からお詫び申し上げたいと思います。  桜を見る会前夜の夕食会につきましては、令和元年秋の臨時国会、本年の通常国会において幾度も答弁をさせていただきました。その中で、 ”安倍晋三後援会は夕食会の主催はしたものの、契約主体はあくまでも個々の参加者であった。後援会としては収入もないし、支出もしていない。したがって、政治資金収支報告書に記載する必要はないと認識していた。夕食会における飲食代、会場費を含め(注)、支払いは個々の参加者からの支払いで完結していた。以上から、政治資金規正法などに触れるようなことはないとの認識である。” といった趣旨の説明を繰り返しさせていただきました。  しかしながら、結果として、これらの答弁の中には、事実に反するものがございました。  昨日、大島衆議院議長、山東参議院議長に対し、先の本会議および委員会において、当時の内閣総理大臣として行った答弁を正すための機会をいただきたいとの申し出を提出させていただきました。本日、国会のご配慮により、このような機会をいただきましたことに心より感謝いたします。  本日、この議院運営委員会の場におきまして、改めて事実関係を説明し、答弁を正したいと思います。改めて全ての国会議員の皆様に、深く心よりお詫び申し上げます。 (注:衆議院における実際の発言は「飲食代、会費、会場費を含め」であるが、参議院においては「飲食代、会場費を含め」と発言しており、読み上げミスと判断し、そちらに合わせた) ***(冒頭発言終わり)***
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何も訂正していないなら、質疑などできようはずもない
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2020年8月、突如幕を下ろした安倍政権。
安倍政権下で日本社会が被った影響とは?

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