「訂正」箇所が不明なら、質疑の前提条件が整っていない
いかがだろう。「
これで終わり?」というのが筆者の率直な感想だった。
「訂正」をおこなうとは、どこがどう間違っていたか、正しくはどうであるかを説明することだ。辞書によれば「訂正」とは、「誤りを正しくなおすこと。ことばや文章の誤りをただし改めること(日本国語大辞典)」「誤りを正しく直すこと。特に言葉や文章・文字の誤りを正しくすること(デジタル大辞泉)」だ。
しかしこれでは、答弁をどう「訂正」したのか、わからない。「
これらの答弁の中には、事実に反するものがございました」と発言するだけでは、これらの答弁の中の、どの部分が事実に反していたのか、そして事実はどうであったのか、わからない。これでは答弁の「訂正」とは言えない。
例えば発表した論文について疑義が呈され、論文の内容を訂正する場合を想定してみればよい。
「論文の中に、誤った記述がありました」と説明するだけで事足りるとは到底、考えられないだろう。1つ1つ、どの記述が誤りであるか、そして、正しくはどうであるか、正誤表を作って説明すべきものだ。論文そのものを撤回するのならともかく、そうでないなら、正誤表は欠かせない。
なのに安倍氏は、前夜祭に関するすべての答弁を撤回するわけでもなく、
「これらの答弁の中には、事実に反するものがございました」と発言するだけで済ませている。答弁をすべて撤回するなら、予算委員会の審議時間を返せ、ということになるだろうし、議員辞職を迫られるだろう。だから「これらの答弁の中には、事実に反するものがございました」という言い方で済まそうとしているのだろうが、これでは到底、「訂正」とは言えない。
安倍氏の説明の持ち時間が限られていたとは考えにくい。前日に
立憲民主党の安住淳国対委員長が語ったところによれば、安倍氏の
冒頭発言を除き1時間程度の質疑ということで与野党で合意されていたようであるため、冒頭発言が長引いたとしても、質疑時間が削られることはなかったはずだ。
安倍氏が「答弁を訂正する発言を行わせて頂きたい」と申し出て開かれた議院運営委員会で、冒頭発言において安倍氏は、「答弁の中には、事実に反するものがございました」としか説明していない。
これでは、質疑に入る上での前提条件が整っていない。「やり直し」を命じてよいレベルだ。
だから、衆議院と同じ説明を参議院議院運営委員会でもおこなった安倍氏の冒頭発言が終了した時点で、立憲会派の議院運営委員会筆頭理事である吉川沙織議員は手を挙げて席を立ち、委員長席に向かい、他の理事らを集めて協議をおこなった。
速記が止まって音声も止められたため、そこで何が話し合われたかの詳細はわからないが(*記事末尾に追記として音声を書き起こした)、理事の一人が安倍氏のもとに行って何かを話し、そのあとで安倍氏が再び答弁に立ち、こう語っている。
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安倍晋三「ただいま理事の方々からご指摘がございましたが、答弁の中で4点申し上げたところでございますが、
この4点についてですね、事実でないものがあったということを、で、ございますが、しかしながら、結果としてですね、事務所が支出を、桜を見る会の前夜の夕食会について、支出をしていなかった、ということも含めて、答弁の中には事実に反するものがございました、ということでございます」
ここでもやはり
「事実でないものがあった」「事実に反するものがございました」としか安倍氏は答弁していない。そして、吉川議員が再び委員長席に向かい、他の理事らも集まって、再び速記が止まる。その後、委員長がこう発言する。
「安倍前総理の冒頭のご発言につきまして、
具体性に欠けるのではないかというご指摘がございました。安倍前総理におかれましては、この後の答弁で、誠実にお答えいただきますようお願いしたいと存じます」
その後、質疑の時間へと移行した。
このやりとりは、非常に重要であると筆者は考える。
「答弁を訂正する発言を行わせて頂きたい」とみずから求めておきながら、「事実に反するものがございました」と答弁するだけでは、「訂正」とは言えないからだ。
そのことを吉川沙織議員は、立憲会派の筆頭理事として、看過しなかった。