説明責任を果たしたという説明を通してしまう報道のあり方
議院運営委員会が25日に開かれたのは安倍氏が「答弁を訂正する発言を行わせて頂きたい」と求めたためであったが、安倍氏はどの答弁をどう訂正するのは、明言しなかった。しかし、そういう事情が報じられず、冒頭発言もその後の質疑への答弁も区別することないまま、この日の様子は各紙で報じられた。
安倍氏はこの国会答弁の後、ただちに記者団の取材に応じ、「
説明責任を果たすことができた」と語っている。さらに次期衆院選に「出馬して国民の信を問いたい」とまで語っている。
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核心答えぬ安倍前首相 議運後には「説明責任果たした(朝日新聞 2020年12月25日)
冒頭発言の様子を見れば、
説明責任を果たしていないことは明らかだ。なのに、冒頭発言も質疑への答弁も区別せずに発言内容を報じてしまうと、野党は「疑惑が解明されていない」と主張し、安倍氏は「説明責任を果たすことができた」と主張したという、
互いの様子を両論併記するだけに終わってしまう。
それでは、
国会で語ることによって「説明責任を果たした」という体裁を取ろうとした安倍氏の土俵に、報道が乗ってしまうのではないか。あの場がどう設定された場であり、冒頭に安倍氏が何を語ったのかが整理されて報じられていれば、「説明責任を果たした」という主張は通らないことが読者に伝わるのに、それが伝わらない形になってしまっている。筆者はそのことに非常にモヤモヤするのだ。
同25日には18時から
菅義偉首相も記者会見をおこなっている。その中でこの日の安倍氏の国会答弁について、最後の質問で「説明責任を果たされたかどうか、どう感じられるのか」と朝日新聞の星野記者に問われた菅首相は、
「説明責任を果たされたかどうか。今回のことにおいて、安倍前総理は、記者会見をされて、そして
国会の求めに応じて、今日、国会で説明をされているというふうに思っています。ですから、そのことにおいて説明はされてきたのではないでしょうか」
と語っている。
「国会の求めに応じて」ではなく、安倍氏がみずから申し出て発言の機会を得ておこなった答弁であるにもかかわらず、このようにその位置づけが都合よく「
上書き修正」されてしまう。
報道がこの議院運営委員会の位置づけを適切に報じなければ、このような「上書き修正」がおこなわれたということさえ、市民は気づけないのだ。それだけ報道の役割は大きいのだ。
なお、筆者は25日夕方に朝日新聞の取材を受けた。26日朝刊に、上にも紹介した下記の朝日新聞の社会面の記事で、筆者のコメントが田原総一朗氏のコメントと共に掲載されている。
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秘書任せの安倍前首相 田原氏も「全く緊張感感じず」(朝日新聞 2020年12月26日)
その中で、筆者のコメントは、こう掲載された。
“
自ら答弁を訂正したいと申し出たのに、何を訂正したいのか結局はっきり言わなかった。どこが間違っていたのか、事実はどうなのかを文書で示した上で質問を受けるべきだが、それもせず、問い詰められてようやく認める、消極的な姿勢に終始した。時間も不十分で、説明したという体裁だけ整えようとしたのが明らかだ。(以下、略)”
しかし、自ら答弁を訂正したいと申し出たのに訂正内容を明言しなかったということは、本来は
記事本文で記者がみずから書くべきことだったと思うのだ。
<12/28 14:19追記>
記事公開後に読者の方より、参議院議院運営委員会で二度、速記が止まった場面での吉川沙織議員(立憲会派筆頭理事)らの音声がTBSの映像から、一部、聞き取れることをご教示いただいた。
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【LIVE】安倍前首相 国会でどう説明?(参院議運委)(2020年12月25日)
そこで、その内容を書き起こしておきたい。聞き取りにくいので、書き起こしは不完全なものであることはご了承いただきたい。
まず、映像の26:12、安倍前首相が冒頭発言を終えたあとで吉川沙織議員が手を挙げて委員長席に向かい、他の理事たちを集めて協議をおこなった場面だ。
●吉川沙織議員(立憲会派筆頭理事):
衆議院と、ほぼ、一言一句、一緒でした。
●長谷川岳議員(自民党・筆頭理事):はい。
●森本真治議員(立憲民主党・理事):どこが事実だと……。
●長谷川議員:はい、わかりました。今から……。
●吉川議員:あの、「わかりました」でなくて……。
●長谷川議員:今から……。
●吉川議員:
あれだけ委員長も交えて……(水落敏栄委員長が頷く)
●長谷川議員:わかってます。
●吉川議員:いや、わかってますじゃなくて、何のために、二院制を取っているのか。
●森本議員:ちょっと……。
●吉川議員:ちょっと。はい。
●森本議員:ちょっと、じゃあ、一回、止めて。
(長谷川議員が安倍前首相の答弁席に近づき、文書を示しながら何かを語る。安倍前首相は手に持っていたファイルを開く。その間に、吉川議員が委員長席の周辺で)
●吉川議員:ほぼ、一緒でした。「当時……確認し、当時を確認し、知りうる限りの認識において」が入っただけで、ほぼ(衆議院議院運営委員会での冒頭発言と)一緒でした。……え?……ええ。
●森本議員:……(聞き取れず)説明するっていうことで……。
●吉川議員:お願いしますよ。
これ、常会にかかわって、参議院の権威に関わる話なんで。衆議院の審議を踏まえての参議院なんで。……昨日から言ってるんですから。……はい、質疑はもちろん、やります。
●森本議員:もう一回、ちょっと。
その後、記事にも記したように、安倍前首相から、「ただいま理事の方々からご指摘がございましたが、答弁の中で4点申し上げたところでございますが、この4点についてですね、事実でないものがあったということを、で、ございますが、しかしながら、結果としてですね、事務所が支出を、桜を見る会の前夜の夕食会について、支出をしていなかった、ということも含めて、答弁の中には事実に反するものがございました、ということでございます」という答弁がおこなわれる。そしてその後、再び、吉川議員らが委員長席に集まる。
●吉川議員:あの……(音声が入っていないため、聞き取れず)……
●長谷川議員:ぎりぎり……。
●吉川議員:
いや、でも、「申し開きしたい」とおっしゃった安倍前総理の場を設けたのは国会ですよ。
●長谷川議員:わかりました。
●吉川議員:
国会、118回、違った答弁をされたんですよ。
●長谷川議員:わかりましたので。私からですね、誠実に。
●吉川議員:誠実に。
●水落委員長:誠実に、言うように、申し上げますから。
その後、委員長から「安倍前総理の冒頭のご発言につきまして、具体性に欠けるのではないかというご指摘がございました。安倍前総理におかれましては、この後の答弁で、誠実にお答えいただきますようお願いしたいと存じます」と発言があり、質疑の時間に移った。
◆【短期集中連載】政治と報道 緊急番外編
<文/上西充子>