高裁でいったんは認められた退職金は、なぜ最高裁では否定されたのか。
高裁判決はメトロ訴訟で、退職金の「長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分」について、正社員の4分の1を支給するとした。だが最高裁判決は、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的」に注目した。
大阪医科薬科大学でも、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的」に注目し、原告ら「アルバイト」と同じ短期雇用の契約社員には賞与を支給していた点については十分に説明しないまま、「不合理とまでは言えない」とした。
仕事の実態より、目的という「会社側の主観」を優先したことになる。
「正社員としての職務を遂行し得る人材」とされてしまえば、対象は正社員以外にあり得ず、「その確保・定着が目的」とされれば「やった仕事」は関係ない。非正社員がどんなに優れた功績を達成したとしても、支給対象にはならないわけだ。
また、今回は「小さな違い」を拡大し、「基本的な同一」は無視、という手法も特徴的だ。メトロ訴訟では、「代務業務」(休暇や欠勤で不在の働き手の補充)や「エリアマネージャー業務」は正社員だけの業務として非正社員とは職務内容が違うとされ、一方、「売店での販売」というもっとも基幹的な業務の同一性については考慮の外に置かれたからだ。
配置転換の範囲についても、正社員は配置転換があるが非正社員は「勤務場所の変更」はあっても業務内容が変わらないから同一ではない、とされた。どこか「ご飯論法」を思い起こさせる言い回しだ。
これらについてはさすがに、裁判官の一人から、「少数意見」が出た。売店業務に従事する正社員と非正社員の職務の内容や変更の範囲に「大きな相違はない」こと、退職金には「長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分」もあること、などから、高裁の4分の1支給は支持するという意見だった。
政府の「働き方改革」は「同一労働同一賃金」を約束し、労契法20条をベースに「パートタイム有期雇用労働法」が4月から施行された。ここでは、違いの度合いに応じた「均衡待遇」に努めることがうたわれている。少数意見はここに配慮したともみられる。
大阪医科薬科大学判決でも同様の読み替えが目立ち、加えて郵政訴訟では認められた有給の病気休暇も、「(原告の働き方は)長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難い」として認められなかった。無給の病休をもらっても働き手はゆっくり療養できない。この制度を活用するには有給が極めて大切だが、そうした働き手の差し迫った必要性は顧みられなかった。