政府の「お決まり答弁」を生み出す、記者の質問方法の問題点。なぜ論点を明示して質問しないのか?

NHKのインタビューでも「理解できないと国民は言っている」

   このグループインタビューは報じるための材料を得ることが目的で、やりとりを可視化することは想定されていないから、どういう聞き方をしても問題ない、という見方もあるだろう。しかし、同じような聞き方は、10月26日のNHK「ニュースウオッチ9」でも有馬嘉男キャスターが菅首相に対して行っていた。 ●菅首相が生出演『ニュースウオッチ9』の質問に激怒し内閣広報官がNHKに圧力!『クロ現』国谷裕子降板事件の再来(リテラ2020年11月12日)  上記の記事から有馬キャスターの問いかけ方を抜粋すると、こうだ。最初の質問については記されていない。以下は、重ね聞きの部分だ。 「総理は国民がおかしいと思うものは見直していくんだということを就任前からおっしゃっていたと思います。で、この学術会議の問題については、いまの総合的・俯瞰的、そして未来的に考えていくっていうのが、どうもわからない、理解できないと国民は言っているわけですね。それについては、もう少しわかりやすい言葉で、総理自身、説明される必要があるんじゃないですか?」 「あの、多くの人がその総理の考え方を支持されるんだと思うんです。ただ前例に捉われない、その現状を改革していくというときには大きなギャップがあるわけですから、そこは説明がほしいという国民の声もあるようには思うのですが」  このように有馬キャスターが問いかけると、菅首相は、 「ただ、説明できることとできないことってあるんじゃないでしょうか。105人の人を学術会議が推薦してきたのを政府がいま追認しろと言われているわけですから。そうですよね?」 などと答えた。  このとき菅首相は険しい表情を見せており、「追認しろ」という箇所では特に強い口調となり、机を叩くような手の動かし方もしている。このような菅首相のふるまいを可視化させたという意味では、有馬キャスターが食い下がって重ね聞きをしたことには大きな意義がある。  しかし、「どうもわからない、理解できないと国民は言っている」「多くの人がその総理の考え方を支持されるんだと思うんです」という言い方は、やはりよくない。国民が理解できないのではなく、菅首相が整合的な説明を行っていないのだ。そのことはNHKのキャスターらも十分に分かっているはずだ。なのにこういう言い方をすると、理解できない国民が悪いという伝え方になってしまい、「丁寧な説明をおこなっていきたい」という返答が得られたらそれで一件落着、のような印象を与えてしまう。  毎日新聞と社会調査研究センターが11月7日におこなった世論調査では、6人の任命を菅義偉首相が拒否したことについて、「問題だ」37%、「問題だとは思わない」44%、「どちらとも言えない」18%という結果となり、「問題だとは思わない」者の割合が「問題だ」と思う者の割合を上回った。報道機関側が「国民には分かりづらい」といった聞き方をしているのでは、何が問題か、焦点がぼやけてしまい、政府の言い分が正しいと思わせることに加担してしまうのではないだろうか

「説明が分かりづらいという趣旨」と要約されてしまった筆者のツイート

 もう一つの事例として、筆者が関係する事例を紹介しておきたい。10月8日午後の加藤勝信官房長官記者会見における時事通信の記者の問い方だ。  この記者会見で時事通信の記者は、筆者が同日午前にツイートした内容について、こう問いかけた(首相官邸ホームページの映像10:51より)。 「学術会議に関連して、お伺い致します。昨日の午後会見で、1983年の国会答弁と2018年の文書の解釈に関する長官のご回答に関して、ご飯論法を世の中に広めた上西充子さんは、『エビチャーハンを作っていたのを玉子チャーハンに変えましたよね、という質問に対し、同じシェフが作っておりその点において何ら変わりがない、と言っているようなもの』と指摘しています。説明が分かりづらいとの趣旨かと思いますが、長官の受けとめをお聞かせ下さい」  私は「分かりづらい」と思ってそうツイートしたわけではない。11月7日午後の記者会見における加藤官房長官の説明が、説明になっていないことを論理的にわかってもらうために、チャーハンにたとえてツイートしたのだ。それが具体的にどういう文脈だったのかは、下記の記事で説明しているので、ぜひご覧いただきたい。 ●④海老チャーハンと玉子チャーハンで考える|集英社クリエイティブ(2020年11月16日)  なのに、「説明が分かりづらいとの趣旨」とまとめられてしまう。それは筆者にとっては、非常に不本意なことだ。「分かりづらい」というのなら、わざわざたとえを使ってその説明のおかしさの論理構造を示すことなどしない。  なのに、「説明が分かりづらいとの趣旨」とまとめられてしまうことによって、加藤官房長官の答弁も、次のように意味のないものとなってしまった。 「まずそのたとえの意味がちょっと私には、にわかに分かりませんが、ただ、今おっしゃるように、その、説明が分かりづらいという指摘に対しては、しっかりと説明ができるように、さらに努力をして行きたいというふうに思います」  そしてこのやりとりが時事通信と毎日新聞で記事となったのだが、時事通信の記事は筆者のツイートの内容を紹介して「『ご飯論法』と同じ論理を展開した」とし、加藤官房長官の答弁をそれに加えただけのもので、このたとえが何を説明したものなのか、記事を読んでもわからないものとなっていた。 ●加藤官房長官が「チャーハン論法」? 学術会議の説明めぐり(時事ドットコム2020年10月8日)  それに対し毎日新聞の影山哲也記者の記事は、「1983年の『(任命)行為は形式的』との国会答弁と、2018年の政府文書の『推薦通り任命すべき義務があるとまでは言えない』との見解に関し、政府が憲法を根拠に『同じ考え方に立っている』(加藤氏)と説明したのを批判している」と、このたとえの意味を的確に解説してくれていた。 ●加藤氏の論点ずらし、今度は「チャーハン論法」 上西・法政大教授が批判 任命問題巡り – デジタル毎日2020年10月8日  時事通信がなぜ私のツイートを記者会見で話題にしたのか、その意図はわからない。けれども結果的に、そのたとえの意味がわからないという加藤官房長官の答弁が様々なネット記事でとりあげられ、私のツイートが意味の分からないたとえをおこなったものとして嘲笑される結果となった。それを気に病むわけではないが、やはりそれは不本意な展開だ。  ここで言いたいことは、つまり、「国民に分かりづらい」といった問いかけ方でさらなる発言を引き出そうとすることは、国民の側を不当に貶めるものであるということだ。  「誤解を招いたのならお詫びしたい」という謝罪の言葉が、自分の側の非を認めるのではなく「誤解」した側に責任を転嫁するものであるのと構造が似ている。相手の発言を引き出すためだとしても国民の側を不当に貶めるのはやめてほしい。そして、質問の中で、何が論点なのかを、はっきりと可視化してほしい
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東京新聞・村上記者の論理だった質問
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