ミスコン廃止の上智大が挑戦した、新たな「ルッキズムに向き合うコンテスト」に覚えた違和感

 大学のミスコン批判が相次いでいる。運営団体の不透明性や、ルッキズムに対する世間の注目が背景にある。そんな中、2020年に上智大のソフィア祭実行委員はミスコンを廃止。「ルッキズムやジェンダーの問題に向き合い多様性を尊重する新しいコンテストを開催する」と発表した。これらは朝日新聞、東京新聞など大手紙でも肯定的に報道され、期待が集まった一方で、実現性を疑問視する声も多く見られた。  そして11月3日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けオンライン開催となったコンテスト。上智大学の学生である筆者も視聴したが、残念ながら充分に「多様性を尊重した」と言えるものでは無かったと思える。結局グランプリを取ったのは、ユニドル(学外にファンを持つ、アイドルのような活動をする女子大生グループ)として活動する美人の女子大生。なぜ、そのような結果となってしまったのか。そして、これからの時代のミスコンはどうあるべきなのか―。
ミスコン

グランプリを受賞した吉開優姫さん(オンライン配信画像より/現在は視聴不可)

多様性を尊重する「ソフィアンズコンテスト」とは

 新しいコンテストの名称は「ソフィアンズコンテスト」。その名の通り、上智大学を代表する学生を決めようというものだ。開催発表時の声明文では「ミス・ミスターコンがはらむ外見至上主義の問題」や「ジェンダー的な観点からのご指摘」を考慮して、「時代にあった革新的な運営」を目指すものとされていた。  公式HPでは、「全上智生から選ばれた候補者が、ソフィア祭(学園祭)までの活動期間の中で自身の魅力と社会課題を発信するインフルエンサーとしての活躍を競います」とされている。  また、他ページには「(理念は)多様性を尊重するコンテスト」「変革したこのコンテストが、ジェンダーをはじめとした社会課題を発信し広く議論を起こすための『spark』(火付け)になってほしい」などの文言が躍る。  従来のミスコンとの具体的な相違点として、「男女混合で候補者を決める」「コンテスト本選での、ウェディングドレスの着用の中止」などがある。これらのコンセプトに基づき、選ばれた候補者たちはツイッターやインスタグラムを通じて、SDGsなどについての発信を行い、11月3日の本選を迎えた。しかし、多くの問題が浮き彫りになる。
コンテスト

選ばれた候補者の6人。「結局は容姿が綺麗な人が選ばれてるじゃないか」という批判も多かった。(公式サイトより)

グランプリは「ミスコンおじさん」の投票で決定?

 最も疑問を感じさせるのはグランプリの決定方法だ。公式サイトを見ると、コンテストは「自己PR部門」「スピーチ部門」「SDGs部門」の3つの順位を「事前審査」ないし「当日審査」によって決定すると記載されている。
ミスコン

公式HPより

 このうち「自己PR部門」「スピーチ部門」の審査の多くを占めるのがWEB上での投票だ。WEB投票を順位決めの重要な要素にするのは、近年のミスコンでよく見られる手法。これまでの上智大でのミスコンでも採用されていた。  この投票者の多くを占めるのが、出場者の女子大生をSNSを通じて応援する大学外の一般男性たちだ。彼らは「ミスコンおじさん」などと揶揄され、彼らによって一般の女子大生がアイドル的に消費されていると批判がされている。  いくら運営が「新しいミスコン」をうたったとしても外面的には「ミスコンの延長」と捉えられてしまう。相変わらず、「ミスコンおじさん」たちはコンテストの候補者たちに注目し、応援した。現に、コンテストの開催中にTwitterで反応していたのはアイドルやミスコン出場者をフォローし、リプライを送っている、いわゆる「ミスコンおじさん」ばかりだった。  これでは、従来のミスコンと同じく、彼らからの人気を集めた出場者に有利になってしまう。案の定、ユニドル(学外にファンを持つ、アイドルのような活動を行う大学生グループ)として活動しており、自己PRの時間にはアイドルのコピーダンスを披露した美人の女性出場者がグランプリを獲得。準グランプリに輝いたのも従来のミスコンでも通用する容姿を持つ女子学生だった。せっかく男女混合にしても、最初から男性の出場者がグランプリをとれた可能性は低かっただろう。  そもそも、多様性を尊重するのがテーマなのに、出場者の自己PRやスピーチを点数化して、順位付けするというシステムにも無理があるように思える。  当然、外見やアイドル性も尊重されるべき一つの個性であり、それを武器にすることは自体は何の問題もない。しかし、多様性をテーマにし、多角的な評価を行うことを目指したコンテストとしては失敗なのではないだろうか
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「社会課題を発信するコンテスト」への疑問
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